レツとライス

 子どもの頃「オムレツ」と「オムライス」の区別がよくつかなかった。英語がわからないのだから、しかたがない。毎回、頭の中で(どっちだっけ?)と迷いながら、「ご飯が入ってるほう!」なんて、頼んだりした。
 だから…なんだろうか。なんとなく、あれは外国から来た料理…だと思っていた。けれど、よく考えてみれば「オムライス」は「ライス」なんだから、これは日本でできたメニューなわけだ。

 オムライスの発祥には、いくつかの説がある。その中の一つが、大阪説。
 時は、大正の終わり。所は、大阪の汐見橋。そこに、一軒の洋食屋がオープンした。この店に通う常連のお客さんの一人が、いつも、「オムレツ」と「ライス」を頼む。いつ来ても、頼むのはそればかり。洋食屋だから、他に自慢のソテーやカツレツなどもあるのだが、なぜかそれは頼まない。
 ある日、そのお客さんに聞いてみると、実は元来、胃が弱く、油っぽいものを受け付けないからという。
「なるほど。それなら仕方がない」
 と納得したものの、やはり、いつも同じものしか食べられないのでは可愛そうだ…とコックさんは考え、マッシュルームとタマネギを炒めてトマトケチャップライスにしたものを、薄焼き卵でくるんで出した。
「うまい! これなら食べられる。ところで、これはなんという料理ですか?」
 オリジナルで作った料理なので、名前なんかない。そこで、オムレツ+ライスで「オムライス」という名前をつけた……というもの。

 この出来事のあと、オムライスはいろいろな店でさまざまに変化し、改良されてきた。現在では、多くの種類を楽しめるのだから、いま、我々は大いに感謝すべきだろう。
 大阪の、その洋食屋の心優しいコックさんにかって? 
 まあ、それはもちろんそうなのだが、もう一人、胃が弱かった常連のお客さんにも。

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