こだわり

 こだわりのラーメン屋さんというのはなぜみんな、頭にバンダナを巻いているのか? ……という点はさて置いて、彼らのこだわりようは並ではない。
 スープは、やれ味噌だ、醤油だ、いや塩だ。鶏がらだ、トンコツだ、いやいや日本人なら煮干だとこだわり、またそれらを絶妙のバランスで配合したりもする。
 麺だって、打ち方にこだわり、かん水にこだわり、さらに細さ太さ、固さ、縮れ具合にもこだわる。そして、その麺とスープとの相性にもこだわる。

 そういったラーメン屋さんにやってくるお客さんも、並じゃない。じっと我慢して行列に並んだ末にようやく食べるのだから、こだわりのある人が多い。
 他の店の味と比べ、「このスープに、この麺は合わない」などとうんちくも語り、味が落ちるとすぐにそっぽを向く。まさに、お店にとっては真剣勝負。他人事ながらも「大変だなあ」と同情する。

 しかし、実はラーメン屋さんが挑んでいるのは、そういった舌の肥えたお客さんではないのではないか?

 きっとあなたも覚えているだろう。あれは学校の帰りだったか、それとも部活の時だったか。よく、友人たちと一緒にラーメンを食べたものだ。
 学生だから、ふだんは具なんかほとんど乗っていないラーメン。だから、たまにバイトでお金が入ったときに食べた「チャーシューメン」の、幸せ感といったらなかった。
 それとも、もっと小さい頃、家族で入ったラーメン屋さんで食べたラーメン。いま思い出しても、きっとごく普通のお店だったはず。だけど、あの時たべたおそらくそう高くもないラーメンの、なんとうまかったことか。
 人によって味もさまざま、名前もさまざま。ラーメン、ラウメン、拉麺、中華麺、支那そば、中華そば…。

 どんなこだわりのラーメン屋さんでも、お客さんそれぞれが持っている思い出の味には勝てっこない。
「それじゃ、こだわるだけ無駄じゃないか」って? 
 いや、そうではない。だって、お客さんの「新しい思い出の味」になることなら、できるのだ。だから彼らは、今日もこだわってラーメンを作っている。

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