隣りか?上か?

「天ぷら」と「天丼」。
 同じものが、ご飯の隣りにあるか上に乗っているかの違いだが、これがずいぶんイメージが違う。

「天ぷら」は……、すこしばかり気取った感じ。ちゃんとした食事。食べるのは、やはり夜だろうか。デートや商談にも使える。「これは塩でお召し上がりください」、なんて食べ方を指導されることもある。
 それに引き換え「天丼」は……、ぐっと庶民派。お昼に食べるのに最適。あんまりマナーを気にしないで「ガッ、ガッ」とかきこんだほうがうまい。

 ところが、その天丼にも、実はずいぶんといろいろなバリエーションがある。
 エビが乗っているものは、わざわざ「エビ天丼」と呼ぶし、野菜の天ぷらがメインだと「精進天丼」なんて呼ぶ場合もある。
 そして、「天ぷら」単品においては主役とはいえないけれど、天丼になると急に主役扱いになるのが「かきあげ」。これは「かきあげ丼」という、また別の名前を持っている。
 さらに、天ぷらを卵でとじたものは、「天玉丼」。その中でも、エビ天を卵でとじたものは、とくに「鎌倉丼」などという別の名前まであるようだ。

 種類ばかりではなく、実は値段の面でも、天丼は他の丼ものと違う特徴がある。たとえば、カツ丼や親子丼ならば、だいたいどこの店に行っても値段は似たようなもの。ところが、こと天丼だけは、ワンコイン少々で食べられる店もあれば、千円冊数枚が必要で、正直言って、
「え? 天丼でこんなにするの?」
 と驚く場合もある。
 一見庶民派に見えて、実は良家の出だった…というわけか。

 天丼は、なかなか一筋縄ではいかない。

(以上「天丼」二題 2007/2/17 放送)

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