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「1 時間でパッとわかる なるほど現代世界史~ 資本主義VS共産主義、何があった!?」 (その2)

編集者からの電話 

 電話の向こうの編集者M女史は、言った。
 ―藤井さんの『超日本史』という本を読みまして、ああいう感じで書いていただけたらと思うんです。

 これが「超日本史」

「ああ。『超日本史』をお読みになってたんですか。では、藤井青銅の作風はご存知なんですね?」
―はい。
「その上で、資本主義と共産主義? せっかくですが、ぼくはイデオロギーに詳しくないので、無理じゃないかと…」
 ―いえ。イデオロギーの本じゃないんです。
「というと?」
 ―現代史の本です。それを、資本主義と共産主義の対立で書いてもらえないかと。
「ああ、そういうことですか」 
 ぼくはほっとした。イデオロギーの本ならまったく書ける気がしないが、現代史の本なら書ける…ような気もしたが、すぐに思い直した。
(いや、待て。書けるのか、オレ?) 

わき上がる不安 

 たしかに、これまで日本史の本は何冊か書いている。日本史なら多少、詳しい。本を書く時のツボもわかっている。しかし世界史は、べつにぼくの得意分野ではないのだ。
 ―どうでしょう?
(急ごしらえで勉強すれば、なんとかなるか? いや、果たしてそれで期待に応えるものが書けるかどうか、わからないぞ。つまんないものを書いて、かえって迷惑をかける可能性だってある。いや、むしろその可能性は、高い)
 実は、放送作家としてなにか特番を担当する時が、これに近い。毎回あらたなテーマに関して急速に知識やデータを詰め込み、一気に「にわか専門家」になる。そんなことは何度も経験してきたので、今回もなんとかなる気がする。 
 しかし、番組の場合は、ぼくの他に作家もいるし、複数のディレクター、プロデューサー、それに専門家の出演者もいる。いろんな人の知恵が補完し合ってなんとかなるのだ。
 が、本だと、そうはいかない。一人でうまくできるだろうか…? 
 ぼくが答えあぐねていたのを察してか、M女史は、
―お返事は、今すぐでなくてもいいんですが…。 
 と助けてくれた。
「ありがとうございます。でしたら、二、三日考えさせてもらえますか?」
 と電話を切った。 

 別の編集者に怒られる 

 そこでぼくは、旧知の別の出版社の編集者に相談してみた。彼は年齢がぼくと一緒。かつて、小説誌でぼくに原稿を依頼してくれ、それを一冊の本にまとめてくれたことがある。 
 銀座の喫茶店で会って、これまでの経緯を説明した。
「ぼくはどうすべきでしょうねえ?」 
 すると、編集者I氏の答えは明快だった。
「そんなの決まってるじゃないですか。藤井さん、それは絶対に引き受けなきゃいけません。絶対に!」 
 ほとんど怒られるような調子で、言われたのだ。その強い言葉の真意は……

(さらに続く)

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