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何かの最大値を広げることは、自由の幅を広げること:マシュー・バーニーの映像作品

今年(2017年)の8月24日に、山口情報芸術センター(YCAM)にて、マシュー・バーニーの「RIVER OF FUNDAMENT」の13:00から19:30まで3部構成合計6時間上映という鬼のような映画の爆音上映を見て、死んでいた感性が再生された。

YCAM爆音映画祭2017 公式サイト

RIVER OF FUNDAMENT公式サイト

見に行ったのは全くの偶然で、たまたまその日暇で、日本ではもう上映がないかもしれない、ということだしずっとYCAMにも行って見たかったし、なんなら宇部のプラント群も見てみたかったし、いくか。と飛行機をとった。

「RIVER OF FUNDAMENT」は正直「なにこれ?」の連続だった。
ベースとなっている原作の小説があるそうではあるのだが、映像としての作りこまれ方がそこいらの映画のレベルの比ではないのだ。ましてや「アート作品」の比としては・・・


例えば人が、絵の具を吐く、という表現は現代アートにかぶれたことがある人ならどこかで見たことがある表現だと思う。だけれども、それを水を抜いたダムの下に置いて俯瞰で広がりをとって、水をだんだん入れていく、とかその流れをスーパースローで見せる、などとは思いついたとしても、ここまでの映像クオリティで作り込むことは相当な執念がなければできないだろう。
だって基本的には「人が黄色い絵の具(着色料つきの水のようなもの)吐いてるだけ」ですよ。どうやって発想してモチベーションを維持しているのか全くわからない。
ストーリーも、解説を何度見てももよくわからないし、基本的に全てが「ちょっとづつ常識からずれてて」エグくてキモいし、音楽もそのハーモニーでいく?そのリズム重ねる?の連続。
3幕全て、一切クオリティの手抜きなし。
作り込まれたセットに、作り込まれた演技。作り込まれた小道具。撮影する方も編集する方もどうしてこんなに集中力が続くのか。

6時間、耐久でも見られたのは環境のおかげもあるのだと思う。
オペラハウスで上映されることが前提とされているため、日本でなかなか上映ができなかったというこの映画、YCAMに爆音上映のチームがくることで上映許可が出たという話だった。確かに、視覚的な刺激の他に、四方八方通常の数倍以上あるというYCAMスタジオAの音響設備からくる音の心地よさと不気味さによって見続けられたという側面が大きかったと思う。
インタビュー「YCAMで爆音上映をやる意味とは?」

とにかく、何もかもが過剰な作品で、過剰な状況だった。
私がそこで受け取ったのは「突き詰めることに際限も制限もない」というただただそれだけの衝撃だった。あまりに衝撃すぎて、YCAMから湯田温泉まで本当にぼーっとしながら歩いていた。

直後に書いたメモにこうある。
「世の中にこんなに本気で世界とずれたことを実現させている人がいるのだから大丈夫、自分大したことない」

「普通」に生活すること自体がすごくストレスだったこの時期に、ずば抜けた過剰さを見せつけられて何か吹っ切れてしまったのであった。もちろん、そんな大作家の状況と自分の状況をストレートに比較するのはなにか違う。だが、自分の中の自由の幅を具体的に更新してくれた。アートの存在意義を、異能を尊敬し尊重する意味を改めて認識した作品だった。

この直後、マシュー・バーニーの過去の映像作品「クレマスター」シリーズを東京都写真美術館で上映するという報を聞き、それは見なければ!と時報予約でなんとかゲットしていたのだった。(本当に瞬殺だった。予約しながら減る席なんてジャニーズの映画舞台挨拶の予約のようだった・・・)
それを見たのが11/26。
見てきた感想としては4は現実そのものの映像が多く、(今となっては)習作のような印象。マン島のTTレースが出てきておもわず森博嗣!と思ってしまった。(「マン島の蒸気鉄道」という短編ミステリ小説があるのだ。)海に向かって駆け抜けるシーン、マン島の3本足マークの扱い方などはriver of〜にも通づるモチーフのように感じた。
5は映像美としての作り込みのトーンが綺麗だ、と思った。オーケストラの音、水の中の表現、マシューバーニー自身の扱い方。特に水の色はフィルム鑑賞だからこその味があるものだったように思う。役者の質や美術に物足りなさを感じたのはriver of〜を見てしまったからなのだろう。

見てきた4も5もずば抜けた造形の奇抜さの想像力にはびっくりするし、映像の「滑ってる感じ」は独特で、気持ち悪かった。

1、2、3も予約できていたのだが、体調を崩してこれはちょっとマシュー・バーニー見る体調ではないだろうと思い行かなかった。何をやっているんだ自分。感想を色々見てると3がとても面白そうだ。

友達には気軽には薦めない。
でも、「異質なもの」を体験したいなら薦めたい。


展示の解説動画を見ていたらもう一度見たい欲が止まらないです。そんな意味を込めてたなんてなかなか初見では難しかったです。あぁ、RIVER OF FUNDAMENTの爆音上映、またみられないかなあ…またはオペラシティ上映でもよいので見たいです。

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