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at the cost of~か、at the risk of~か

こんにちは。高校英語教員のSakuraです。

勤務校は夏休みに入り、実施したばかりの期末考査の採点作業を進めています。

高1の採点を進めているときに、次の問題を採点していたのですが、生徒の答えにいくつかのパターンが出てきて、それぞれ調べてみました。

問題(例文は『英単語・熟語Bricks 1』(いいずな書店)より)
He worked every day for a year at the (   )(   ) his health.
彼は健康を犠牲にして1年間働いた。

生徒解答A
cost of

生徒解答B
risk of

解説 cost の場合

at the cost of の場合は、「(結果として)~を犠牲にして」という意味になります。of 以下に来る目的語を、「コスト」として消費した上で、という意味に近いのでしょうか。

さらに、括弧内の、「結果として」という意味が、ここでは重要だと思われます。犠牲を払ったというのは結果であり、起きてしまった(変えられない)事実だ、ということになります。

例1(Genius5版より)
If you continue to smoke, it will be at the cost of your health.
タバコを吸い続けたら健康を犠牲にすることになるよ

例2(Wisdom英和より)
Freedom was obtained at the cost of her own life.
彼女の生命を犠牲にして自由が獲得された

例1は未来表現のため、分かりづらくなっていますが、「吸い続けたら、将来気づいた時には、すでに健康を犠牲にしてしまっているだろう」ということでしょう。未来のいつの時点かは言及されていませんが、自分が気づいた時、という時点が省略されているのだと思われます。

例2では、より分かりやすくなっています。
彼女の命が失われたのは変えられない事実であり、その犠牲の上に、自由を獲得した、という意味になります。

解説 risk の場合

一方、riskの場合は、「起きてしまったこと」ではなく、「これから(高確率で)起こり得ること」という、まだ起きていない出来事を指すと考えられます。

例3(Genius5版より)
at the risk of losing one's job
職を失うのを覚悟の上で

例4(O-lex英和より)
At the risk of seeming rude, I must leave now.
無礼に思われるかもしれませんが、もうおいとましなくては
(相手を怒らせる[あきれさせる]かもしれないことをいう時の前置き)

例5(O-lex英和より)
He saved the little girl at the risk of his own life.
彼は命を賭けてその少女を救った

例3は、実際に職を失ったかどうかは不明であり、その危険性が(きわめて)高い、という意味となります。

例4は、相手に対する配慮、というニュアンスがありますが、実際に相手が怒ったかどうか(無礼だと感じたかどうか)については言及していない文です。なので、訳にも「無礼に思われるかもしれませんが」という風に書かれており、相手が怒ってしまった、と言及しているわけではありません。怒らせてしまう可能性が高い、という話者の気持ちが入っていると思われます。

例5は、過去形の文ではありますが、彼が命を犠牲にした(彼が亡くなってしまった)のかは言及されていません。その少女が助かったのは事実として述べられていますが、ここでは「彼が命を失う可能性が極めて高かったが、彼は少女を助けた」というニュアンスになっています。

結論 cost は過去指向、risk は未来志向

こうして比べてみると、costが起きてしまったこと(犠牲が発生してしまったという事実)を前提にしているのに対し、riskが焦点化しているのは、その危険性(つまり可能性)であり、その危険性が現実化したのかどうかは言及しない表現だ、ということが分かります。

形が似ている熟語なのですが、両者をきちんと分けて理解し、覚えていく必要がありそうですね。


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