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「僕も、アヤメを植える」       さやのもゆ

私には、「お父さんの菖蒲」と呼んでいる、父が生前に自ら植えつけた菖蒲の鉢があり、今は母が世話をしている。今年は去年にも増してたくさんの蕾をつけており、最初は葉の付け根を真紅色に染めていたものが、次第にふくらみ始めた。そして、茎を上へと伸ばしながら先端の萼を割き、重厚に折り畳まれた紺青の花片が螺旋を解くように、類い稀な造形を現わした。この一輪を始めに次から次へと花は開いていき-今日は六輪の花が咲き揃った。「一度にこんなに咲いているのは、たぶん今日までだね。」母はそう言って写真におさめた。
 写真の菖蒲は、午後の西日が低く木末を掠めてくる頃に撮ったものである。本来ならこの花には、曇りがちな空だとか、あるいは水を含んでふっくらした露の気配などが似合うと思うのだが、黄色味をおびた光は赤紫に透き通り、その影を群青に深くした襞模様を描いている。、この花をしてあたかも、地に降り立った舞踏の静止した一幕を観るように、私を惹きつける。

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