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一瞬映る資料に目を奪われる「虎に翼」第69話(ドラマ鑑賞備忘録)

「虎に翼」PCで一時停止しながら食い入るように毎話最低3回は見ている。
今日の第69話は、寅子の怒りがそれほどまでだったとはわかっておらず、消化・理解できていない。

最近の寅子の活躍が業界での「女性」という希少性から来ていることにずっとモヤモヤしている。誰かのサポートだったり、花束贈呈という盛り上げ役であったり。
それは、兄の結婚式で歌わされたあの時と同じ。
本質的な部分での評価ではなく、何かにつけて担ぎ出される役割を担わされつづけている寅子のスンとした表情、そしてそれに嫉妬を持っているであろう同僚(小橋を筆頭に)がちらついてちらついてちらついて。
ただ、花束贈呈を拒否したあの瞬間、「スン」にとどまらない新しい寅子を見た気がした。

今日は寅子の怒りに耳目を奪われたけれど、一瞬映される小道具の域を脱した資料の数々から見える「語られない」情報に感動している。

今週の裁判所
離婚調停中(家事部担当)の両親の元で窃盗を繰り返す少年「栄二」、彼の処遇を調査する少年部、審判を行うかどうかの判断前の家庭局(寅子)の聞き取りの様子が描かれている。

栄二はフランス出身の母親と日本出身の父親を持つ。
両親の不仲や周囲の無理解や差別によってどこにも拠り所を見つけられず悪い仲間と共に窃盗を繰り返すようになった。
そんな栄二を見捨て、互いに親権を押し付け合っている両親。
一方の栄二は口を閉ざし、少年部も周囲の意見でしか状況把握できない状態になっている。
審判となれば、家庭局の寅子が誰に親権を託すのか決断することになる。

両親は、自分の生活、栄二がいない新しい生活を築きたいという冷淡で身勝手な発言を繰り返す。
ひたすらひどいのだけど、一瞬映る「少年調査記録」には追い詰められた親の姿も透けて見える。(だとしても酷いのだけれど)

■調査記録■
【基礎情報】
氏名:梶山栄二(昭和十一年七月十日生)
本籍:東京都杉並区天沼二ノ五
住所:東京都新宿区下落合
記録:昭和二十四年十二月八日 窃盗 観察処分
   昭和二十五年 四月三日  〃   〃 
【家族】
 父は平素病弱でむずかしく‥‥
 母はきわめて無関心で冷淡である
【栄二の状況】
・混血児のため親しい友人にめぐまれず‥‥自宅付近の道路上でなれなれしく‥‥不良とその仲間の来訪うけ外出はげしく‥‥
・注意深く虚言的傾向はみられない
・時として興奮、衝動禁じ得ない
・悪友の誘惑のまま彼等の利用‥‥
・久宮太郎等と共謀又は単独にて‥‥九月十七日頃銀座七丁目の衣料‥‥相当のものを窃盗した。
【発育歴】
少年の父は外交官として諸国に駐在‥‥勤務中、母と相知り、結婚した。
【?育歴】
東京に居住小学校に入学したが混血児として白眼視された。学童集団疎開のをり、特に‥‥学友から「スパイの子」「日本の敵」とかずかずの‥‥
【教育歴】
学業成績は比較的中位であったが、少年は作文は‥‥得意として成績は優となっていた。中学1年の時‥‥半年ほど休学したため、落第やむなきに‥‥。不満と劣等感をいだき怠学がはじまった。
【??歴】
自から就学を放棄したもので、就職歴は有しない‥‥

「少年調査記録」、フォーマット部分は印刷(活版?)であとは手書きで聞き取りした上で万年筆で清書、記録されているとわかる。

栄二が生まれたのは2.26事件があった年か…戦前とはいえ国内も緊迫して外国出身である母親にとっても相当厳しい時代だったのではないかと思う。
両親の不仲や周りからの差別で孤独を強め、悪い仲間と共に窃盗を繰り返すようになった。
初めて捕まったのが13歳、独りで街を歩いていても保護されることもなく不審がられることはない年齢。
たとえ悪い仲間でも話しかけてくれる人がいるというのが栄二の救いになったことは容易に想像できる。裏があるやさしさでも人に飢えている孤独な栄二にとっては手放せない関係だったのかもしれない。

年代や友人関係、成績など細かく丁寧に記載されていて、「少年調査記録」という小道具にもしっかりドラマが描かれている。
栄二に限らず、非行に走る少年(ここではまだ少年だけしか出ていないけれど、少女も)が、彼ら自身が悪いからそうなったのではなく、大人の都合、社会の歪に落とされてしまった救われるべき人達として描かれている。
彼らの未来を自己責任論で語るのではなく、社会、大人が負うべき責任であるという姿勢に涙が出る。

栄二の顔を見るたびに、はるさんの「よくここまで一人で生きてきたね」「すべてを突っぱねちゃ…だめ」という言葉が聞こえてくる。

石田ゆり子さんのあの声で。


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