見出し画像

「国道沿いで、だいじょうぶ100回」岸田奈美著(読書備忘録)

書名:国道沿いで、だいじょうぶ100回
著者: 岸田奈美
出版年:2024年
出版社:小学館

大好きな話は手元に紙で置いておきたい。
Noteを購読していて内容は読んで知っているけれど、ページ割までこだわりを感じられて、Noteとは違った良さがある。
岸田さん本人が描いたというイラストも味があってとても素敵だし、弟の良太さんが書かれてページ番号も味わい深い。

岸田さんのエッセイの不思議だけれども大好きなところは、一緒に体験したかのように思えるところかもしれない。

Noteで読んだものを本でも読んで、一緒に「ああ、そんなこともあったねぇ」とか「あの時は大笑いしたよね」とか。
居間に集まってお茶を飲みながら記憶を共有する感じ。
つらくて大変だったことも、「大変だったよね」と言いながら言葉に出さずにお互いをねぎらう感じ。
よくぞご無事でとお互いをたたえ合う感じ。
私の注意散漫読書のせいもあるけれど、読み返すたびに新しい発見がある。

『「死ね」と言ったあなたへ』というエッセイでまた泣いた。
エッセイというか、この回は、その「あなた」への手紙だった。

ある人が岸田さんの弟さんの写真に書き込んだ酷い言葉。
それにまつわるやり取り、書き込んだ本人に連絡を取ったこと、なぜその言葉を発するに至ったのか尋ねたことがつづられていた。
本人やその母親とのメールのやり取りで、「死ね」と書いたその人の悲しみや苦しみが明らかになった。

「ひどい人」と糾弾するのではなく、「なぜ?」という思いから相手と正面から向き合おうとする岸田さんに、当初、なぜそこまで?という思いがあった。
そもそも、私だったら向き合うというアイデアさえ浮かばない。相手の事情などお構いなしに悪者判断ですぐにブロックするだろう。
そうすることで自分を守る。ただ、それ以上のひどいことは起きないけれど、「ひどいことをされた」という記憶だけが残り私自身が後々まで苦しむかもしれない。

酷いことを言う人全員に都度対峙するのは大変だけれども、それでも流さない、何かしらのアクションを起こすこと、相手を知ることが更なる加害を止める一手となるのだと強く強く感じた。

「想像力は、困難に絶望しないための強さです」

岸田さんのこの一文に泣いた。
絶望の先にも想像力で補える何かがあると信じたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?