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川っぺりムコリッタ(映画鑑賞備忘録)

2022年 日本
監督、原作、脚本:荻上直子
主演:松山ケンイチ
助演:ムロツヨシ、満島ひかり 他
川っぺりムコリッタ : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)

「かもめ食堂」から大ファンの荻上監督作品。
映像、切り取られた風景がすべて美しくて「やっぱり好きだ」と思った。
土手でアイスを食べる2人、背後にあるのは鉄塔と夏空
狭い文化住宅の風呂場
白米に食らいつく主人公の横顔
座布団のない部屋

映像のすばらしさに感動しつつ、当初、登場人物たちのセリフが浮世離れしていたり、やたらと説明調だったりと世界観にうまく浸りきれなかった。
ただ、魂が抜けた人間の形をしただけの浮遊する登場人物が何人も出てくるのを見ていると、あの世の手前の世界をのぞき見している気持ちになった。
人はみな語りきれない過去を持つ。どうしようもなく見える人も、頑張っていそうな人にも事情がある。
そして、どんな状況でも食べて食べて命をつないでいる。

荻上監督作品での楽しみの一つ、食事の場面、今回もすごくおいしそうだった。ただ、凝った料理は出てこない、ただ炊き立ての白米と簡単なごはんのお供だけ。
これまでの作品とは違って、もっと「命」と直結している感じ。
魂をあちらに引っ張られそうな人が、唯一この世とつなげている命綱としての白米。
未来への希望、気力が全くない空っぽの器のような、全身から「生」が抜けきった主人公が唯一見せる「生」が食事の場面だった。
あの世に魂を持っていかれそうな感じだけど、食べる様子を見て、「あ、この人は死なない」と安心した。
そして、準主役級の存在感を放つムロツヨシさん。すごく汗臭そうだった。
自他境界があいまい(というか、ない。)な隣人島田が…うざい。
汗臭そうだし、ずうずうしいし、強引にお風呂を借りるし。
本心ここになし、地に足がついていない感じが怖かった。
ずうずうしくすることで自分の傷から目を背けている感じ、ウザくて怖い。
目が笑ってないし、この後サイコパスサスペンスに路線変更したらどうしようと怯えた。
ただ、彼が放った一言「どんな人だったとしてもいなかったことにしちゃだめだ」というセリフが刺さりすぎて頭から離れない。
主人公山田が長年没交渉であった実父の遺骨引き取りに否定的な発言をしたときのセリフだった。
「親だから」とか「家族だから」とかそういう理由ではない。
関わりのあった人をないことにすることは自分自身を消去することにならないか?そういう言葉に聞こえた。
不思議な浮遊感のある映画で、ラストもなにか答えがあるわけでもない。
消化不良と言えばその通り。
だけど、シーンのそこかしこに、自分が体験したことのあるものが隠れていた。
現在、ミュートで2周目視聴中。
ミュートにする方が登場人物の感情が見える気がする。
(緒方直人さん最高。好き。)

改めて見て、食べる場面がない登場人物は「この世につながっている」。
食べる場面がある人、多い人ほど「魂がこの世にない人(心ここにあらず)」のように見えた。

https://eiga.com/movie/93916/gallery/2/


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