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水平線(映画鑑賞備忘録)

2023年 日本
監督:小林且弥(初監督作)
主演:ピエール瀧
水平線 : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)
【公式】映画『水平線』オフィシャルサイト (studio-nayura.com)

「他者を弔い、自らを再生する」という言葉に惹かれて手に取った映画のチラシ。試写会で鑑賞できたのは本当に幸運だった。

福島県のとある港町。震災で妻を失った井口真吾は、個人で散骨業を営みながら一人娘、奈生と暮らす日々。
ある日、彼のもとに持ち込まれた遺骨は、かつて世間を賑わせた通り魔殺人事件の犯人のものだった。

【公式】映画『水平線』オフィシャルサイト (studio-nayura.com)

震災後の福島に生きる父と娘。彼らの微妙な距離感や今はいない家族の痕跡、徹底的に「そのこと」を語らないことで、語られない出来事の重さがひしひしと伝わる映画だった。

語られないそれぞれの傷が、「通り魔犯の遺骨」の散骨を引き受けたことでそれぞれの後悔や喪失、感情がずるずると引き出されていく。
そして、「部外者のジャーナリスト」による正義という名の暴力で

正義を振りかざす「部外者のジャーナリスト」江田役の足立智充さんは憎々しくまた腹立たしくて、目が離せなかった。
はじめ、「なんて憎々しい、嫌な奴なんだろう」と思い「被災者側」でストーリーをなぞっていたけれど、終盤、主人公から浴びせられたセリフで「あ、私のことだ。勝手に寄り添って代弁しようとしている、私もまた部外者なんだ」と冷や水を浴びせられた。

勝手に代弁するな。
勝手に寄り添っている気になるな。
被災とか他人の悲劇をコンテンツとして消費するな。
お前は何者(何様)なんだ。

そんな声が聞こえてくる気がした。

この映画は、被災者にも、被災者ではない我々に対しても、何か強い言葉で訴えることはない。
主人公の後姿、娘の苛立ち、遺骨を託した加害者の家族のお辞儀の深さ、被災者を代弁するジャーナリストの煙草を吸う様子、ふとした仕草からそれぞれのストーリーが目に浮かんだし、腹立たしくもあり親近感を覚えた。

試写会後の舞台挨拶でピエール瀧さんは、映画を映画館で見る醍醐味について以下のようにコメントされた。

「映画の世界から余韻を感じながら外に出て日常に戻っていく、日常に戻りながら映画を思い出してかみしめたり誰かと話をするそういう時間を持てるということ。演者としてはそうやってこの映画を味わっていただけたらありがたい。」

記憶を頼りに書いているので要約になってしまうけれど、この言葉を聞けて試写会で映画を見ることができて本当に良かった。

ピエール瀧さんの懐の深さ、人間味ある演技、周りをほぐす柔らかさ、監督はじめ演者の皆さんが口をそろえて仰っていたけれど、一鑑賞者からもそういう「熱」が映画全体から感じられた。

https://eiga.com/movie/100460/photo/


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