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福田村事件(映画鑑賞備忘録)

関東大震災から100年の節目の年、そして戦争や災害がより身近になってしまった今だからこそ、この作品を見ることができてよかった。
ただ、よく上映することができたな…と思った。
そう思ったことに、「私たちはすでに言論統制された社会に生きているのではないか」とぞわっとした。

関東大震災後の流言蜚語により韓国人、中国人の人が襲われたことは聞いたことがあったが、きちんとは「知らなかった」。
差別意識を持った日常に不満のある一部の人間の暴走かと思っていたし、昔の話、歴史の一ページだった。

そんな中でのこの映画。
今の世の中の空気と似たものを感じてずっと怖かった。
村人がどの瞬間で暴発するのか、怖くて怖くてずっと緊張していた。
差別する人とされる人という単純な構造ではなく、差別されている人の中にも差別する人がいる。
自分は差別されているのになぜ他人を差別してはだめなのだという人もいる。
差別とは無縁だったはずの人が不安にかられ流言に乗ってしまう。

集団は普段集団の中の異端を排除する。
予想外の状況が起こったとき、集団はより強固に内に向く。
そして「仲間を守る」という御旗のもと、タガが外れたら取り返しのつかない。

見終わって、「差別はいけないことだからやめましょう」という言葉が空々しく感じた。
もちろん差別はいけないし、許されることではない。
映画の登場人物の誰にでもなる、なってしまう可能性があることを強く感じた。怖い。何が怖いって、私が暴動に加担しないと言い切れないところ。
差別はしていない、差別意識がないと言い切れないところ。
100年前の出来事は歴史の1ページではなく、今につながる地続きの話なのだと強く感じた。

エンドロールが終わったとき、会場から拍手が起こったのが印象的だった。

公式サイト


出演者について
キャスティングも素晴らしかった。
コムアイさんや水道橋博士がの技を初めて見たけれどすごくはまって素敵だった。(水道橋博士は、素敵というよりむかついた)
田中麗奈さんの浮世離れした都会の若奥様の感じとか、井浦新さんの静かに絶望している姿もとても良かった。
中でも一番印象に残っているのは、東出昌大さんだ。
善人でもなく悪人になりきれないずるくて優柔不断、決断を避ける男の役がとてもよかった。その演技も嫌味なく「いるよね、そういう人」とすとんと納得できてさらに良かった。


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