Dr.コトー診療所(映画鑑賞備忘録)

2022年 日本
監督:中江功
主演:吉岡秀隆
Dr.コトー診療所 : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)

Amazon primeで鑑賞

ドラマ放映当時は、美しい景色、問題もあるけれど人の良い島人たち、アットホームな雰囲気を背景に、島にやってきた医師の奮闘記といった内容で大好きだった。

懐かしい気持ちで映画を見て、今回その内容に愕然とした。

無邪気で善良な人たちが誰かの善意を食いつぶす恐怖の物語だった。
今回、都会から修行に来た若い研修医の視点と島民の視点が交錯する形で物語は進行する。
当初、身勝手で協調性のない研修医と思って見ていた彼が実は一番現実的で冷静、むしろ思いやりがあった。

閉鎖的なコミュニティで生きていると、よくも悪くも「お互い様」にならざるを得ない。
あの人に頼れば大丈夫、あの人じゃなきゃ私たちが生きていけない。
だってそれは私たちが生きていくために仕方がないじゃないか…。

頼られた方も、きっとうれしくて、それがやりがいになって、責任感を帯びて知らない間にがんじがらめになっていて、それでもまだその歪さに気づかない。

日常であれば島が抱える問題も何となくみんなで力を合わせて解決していた。誰かの勝手な行動も「個性」として笑って許せた。

「お互い様」であったものが、いつの間にか本人も知らないうちに誰か一人の辛抱と頑張りに偏って、災害という非常事態によってその歪さがあらわになる。

その非常事態で研修医が涙ながらに言う、「病気の人間をそこまですり減らしていいのか」という言葉が重たかった。

キラキラした景色、温かいヒューマンドラマだったはず物語が恐ろしい生存競争を見せられた気になった。
そして、最後。
ヒューマンドラマなのですべてが丸く収まっていた。
本当は何も解決していないのに。

この映画の恐ろしさは、全員に悪意がないことだ。
誰も悪意を持って主人公を追い詰めたりしない。
むしろ善意から行動する。

それが怖い。
正義感のある優しい人は知らない間に搾取されていく。
「頼りにしてます」「あなたのおかげで」って本当に麻薬。
言われる方も言う方も、用法容量を間違えると劇薬。

私にとってこの映画はホラーだった。



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