「〈弱さ〉を〈強み〉に-突然複数の障がいをもった僕ができること」天畠大輔(読書備忘録)

「〈弱さ〉を〈強み〉に-突然複数の障がいをもった僕ができること」
天畠大輔 著
2021年 岩波新書

数年前、ひょんなことで天畠さんの講演を聞いた。
介助者の方が彼の手のひらの下に手を置き、「あかさたな…」と言うと、天畠さんの手が「は」で少し引っ張るように動く。
介助者は「はひふへほ…は…」とハ行を言うと2回目の「は」で反応された。
介助者はさらに「あかさたな…」と続けサ行でまた反応、「さしすせ…」と続き「し」で反応、この作業を繰り返し、少し単語が固まったところで介助者の方が「はじめまして、でいいですか?」と天畠さんに確認、反応されたことで「はじめまして」という言葉が天畠さんの伝えたい言葉だとわかった。

一連の動作を見て、伝えたいという思いの強さをひしひしと感じた。
突然の障がいにより自分の意思を発するすべを失ったその絶望を想像し、不安で押しつぶされそうになった。
そして、そこから伝達手段を得て人と関わっていこうとされたその姿にどこからその気力がわいたのかもっと知りたいと思った。

そういうきっかけでこの本を手に取った。
中学生も十分理解できるわかりやすい言葉で率直にご自身のことを書かれている。美談として片づける「物語」ではない、生きるためにいかに人を巻き込むか、人の善意に頼るところからいくつも飛び越えて、当事者自身が介助者のやりがいに気を配る、介助者を育てるという発想がとても新鮮だった。

彼が論文を執筆するときの介助者と当事者の距離感やとらえ方、彼が介助者のサポートを受けて執筆した論文は彼の論文と言えるのか、など、普段考えることさえしなかった事柄を当事者である天畠さんが言及されていたことに感銘を受けた。

「『もっと誰かに称賛されたい』…その称賛は、『僕一人』に向けられるものであってほしかった」
天畠大輔「〈弱さ〉を〈強み〉に-突然複数の障がいをもった僕ができること」

あまりに率直なその言葉。
でも、今、まさに私自身が周りに言いたかった言葉で、私の願いを言い当てられたようで動揺した。

「生ききる」という言葉も好きだった。
生きるんじゃなくて、「生ききる」んだと。
私は、私を生ききるためにどう動こうか、と考えつづけている。

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