(劇評)本質を掴みとり、差し出す

カンパニー・デラシネラ『ロミオとジュリエット』の劇評です。
8月7日(日)1500開演 金沢21世紀美術館シアター21

 「おおロミオ、ロミオ、あなたはどうしてロミオなの」
 この有名なセリフと、二つの家が対立している、程度の知識しかなかった。カンパニー・デラシネラ『ロミオとジュリエット』は、そんな私でも問題なく鑑賞できた。問題なく鑑賞できた理由は、わかりやすかったから、だけではない。むしろ、わかりやすくしようということは二の次であったのではないだろうか。
 カンパニー・デラシネラの『ロミオとジュリエット』は、各地の演劇祭の他、小中学校の体育館での上演を多数続けてきた作品である。この作品は、子ども達にとって初めての演劇体験になるかもしれない重責を深く認識した上で、決して子ども騙しには陥っていない。
 子どもの鑑賞に耐えるものを想像すると、わかりやすさを重視した簡単な台詞や、大げさな身体表現を思いつくが、そのようなものはここにはない。簡略化していない台詞は、時にはうまく聞き取れないこともある。どうしても必要な場所では、マイクを使うなどしていたが、台詞を正確に聞き取れなくとも、筋にはついていけるように構成されているのだ。上演時間も長くはない約70分、重要な場面だけがうまく抜き出されている。

 舞台は上手、下手、正面の三方から客席に囲まれている。中央には引き出しの付いた茶色の机。机には様々な小物が仕込まれているようで、光が灯ることもあれば、小道具が並ぶこともある。遠目には細かくて見えないことも多いのだが、何か1点に興味を引き付ける点で、重要な働きをしている。
 周囲には、白い長方形が、立っていたり、寝かされていたりする。白い台は演者によって動かされ、組み替えられ、場面を表現する。

 この白い台を使った、印象的なシーンがあった。長方形の白い台が、演者達によって次々ジュリエットの前に並べられる。ジュリエットは台の上を歩いて行く、台は傾けられ、その上を歩くジュリエットは、まるで階段を登ったり降りたりしているかのようである。
 印象に残ったシーンがもう一つある。演者二人が広げ持つ、黒い紐が長方形の空間を作る。その中を踊るロミオとジュリエット。紐の四角は大きさを変え、縦になり、横になり、時にロミオとジュリエットの間に立ち、二人の接触を妨げる。
 どちらも、抽象的な身体表現で、もしも子どもに「なぜそんな風にしたのか?」と聞かれても、具体的な回答はできないものかもしれない。それは、ロミオとジュリエット二人の物語を解釈して、その本質を掴みだそうとした時に、カンパニー・デラシネラが捉えた表現であり、観客に届けたい思いが凝縮されているものであること。子どもはそこまでを理解はしないかもしれない。

 だが、子ども達はしばらく後になって、ふとどこかのシーンを思い出すかもしれない。そして、改めて何かを感じるかもしれない。もしかしたら、演劇というものに、興味を持ってくれるかもしれない。そんな瞬間が訪れることを信じているかのように、どこを見られても手抜かりのない、本気の表現が続けられていた。

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