(劇評)ずっとずっと続く連想ゲーム

劇団どくんご『愛より速く』の劇評です。
6/13(土)19:00開演 いしかわ四高記念公園

 劇団どくんごは自前のテントを持って全国を旅する劇団である。公園に設置された薄暗いテントの中には段になった客席と、地面より少し高くなった6畳ほどの舞台。舞台後ろには赤い薔薇の絵が描かれた布が下がっている。

 開演に先立ち、案内がある。特に話のない芝居であり、場面を楽しんでもらえればいいと。その説明の通りに、「愛より速く」は数えきれないほどの場面転換で構成されており、そこに一貫して流れているあらすじのようなものはない。順守すべき物語が無いならば、やりたいことが何でもできるように思えるが、物語というガイドを用いないで、ぶれさせずに表現をまとめ続けることは難しい。

 小さな舞台の上で、劇団員6人がまさに所狭しと動き、次々と演技を繰り広げていく。彼らは幻想に見る少年少女のような衣装をまとい、大人ではない、でもこどもでもない時間を生きている。様々な状況を繰り出すために体当たりの役者達。彼らは、それぞれが舞台に一人きりでも観客の視線をしっかりと引き受けて、豊かな動きを返答として客席へぶつけてくる。劇団員達の操作によって、場面はくるくると変わる。ただ一場面のためだけに描かれ、下手から上手へ引かれて、流れるように去っていく背景の絵。テントの外をも舞台にしてしまう自由な迫力。高い熱量を放ちながら、劇団の色を濃密に塗り広げていく。

 劇中何度か見られたモチーフがあった。言葉の連想である。○○といえば、△△。△△といえば、□□。言葉が違う言葉を呼ぶ。思いよらない飛躍もあり、最初が何だったのか、過程が何だったのか、もうわからない。わからないまま、発想はどんどん続けられていく。いつまでたってもおわらない時間の中にいると、最初が何だったのかなんて、どうでもよくなってくる。意味を超えた純粋な演技が舞台上に生じていた。

 心はどこにあるのか。劇中に問われていた言葉である。心に手は届くのか。手を届かせるためには少しの工夫が必要かもしれない。ああやって、こうやって、ああでもなく、こうでもない。試行錯誤の連続が、ひとつの流れになっていく。○○といえば、△△。たどり着いたかと思えば、また次の目的地が見える。△△といえば、□□。どくんごの終わらない連想ゲームは、もっと、ずっと、誰かの心に届くまで、また別の誰かの心に届くまで。貪欲に、でもユーモアを忘れないで、行われていくのだ。

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