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これは、何の授業でしょう。

さやか星小学校 教務主任・第1学年担任 島岡次郎 

さて、表紙の写真を見て、何の教科の授業だと思いますか?直感でお答えください。3・2・1・0!はい、タイムオーバーで〜す。答えは体育!ではなく、実は算数です。この授業がどうして算数になるのかと不思議に思われる方も多いでしょう。落ち着いてください。今から説明します。

この日の授業の学習課題は、「0の足し算」でした。教科書には、「ボールを投げてカゴに入れるゲーム」が題材として載っています。「Aさんは1回目に2個のボールを入れました。2回目は0個でした。全部で何個のボールを入れたでしょう?」という問題です。これを教科書だけ読んで「2+0=2です。0を足しても、答えは増えません。」と机上で学習しても感覚的によく分からないし、あまり面白くありません。そこで、運動会で使う玉入れのカゴを使って実際にボール投げゲームを行い、自分たちの得点を計算して、0の足し算を体験する学習をしました。しかし、意図的に0点にするのは難しいですし、子供もつまらなくなってしまうので、「次郎先生とじゃんけんをして、勝ったら一番前の線から投げられる。あいこなら、二番目の線から投げられる。負けたら一番後ろの線から投げる。」というルールにしました。写真を見ても分かる通り、一番後ろの線はかなり遠いので、ほとんど入らないだろうと想定したら、だいたい思った通りになりました。

さやか星小学校の算数では、体を動かしながら数を操作する学習を多く取り入れています。動作を伴うことで、数を感覚的に捉えやすくなるからです。引き算の学習では、体育館でボールや三角コーンを動かして、求残・求補の場面を実際に体験しながら計算をしました。これからも、さやか星小学校では教室から飛び出す算数をどんどん実施していきたいと考えています。

ケイレブ・エヴァレット著「数の発明〜私たちは数をつくり、数につくられた〜」では、人間にとって「数」という概念の発見がいかに大きなものだったかを、膨大な考古学的な資料から考察しています。この本を読んで私が思ったことは、数という知的な道具が、いかに多様な概念を網羅しているかということです。鉛筆の本数やパンの数のような具体物の個数はもちろん、重さや長さ、はては回数といった目視できない抽象的な概念まで数で表すことができます。「数」という人間が手に入れた知的な道具の素晴らしさを、私は算数の授業の中で少しでも子供たちに知ってもらいたいと思っています。この日、あるお子さんの得点は、1回目が0点で、2回目が3点でした。式にすると、0+3=3ですが、この「0」は、その子にとってはただの0ではなく、一生懸命ボールを5回投げた記憶と結びついています。数の上では、「0」でありますが、とても多くのことを学んだ「0」だったと思います。