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花咲くふたり

予報外れの雨雲を、喫茶店の窓越しにぎろりとにらむ。
女手ひとつで育ててくれた母との東京旅行。
スカイツリーの展望台からは何も見えなかった。
谷根千の食べ歩きも、上野動物園も、雨のせいで台無しだ。

「この時期の雨は催花雨って言ってね、花を咲かせる縁起のいい雨なのよ」
あんみつをにこにこ頬張る母を見たら、余計に喉の奥がきゅっとした。
来月、私は就職する。実家へは飛行機に乗らないと帰れない距離だ。

「一人ぼっちにしてごめんね」
私は小さくつぶやいた。

「お母さんはずっと楽しかったし、これからはもっと楽しむわよ」
きっぱりとした母の言葉に、私は顔を上げた。
「娘もようやく巣立ったことだし、行ってみたいところがいっぱいあるの」
母の目はきらきらしている。

「私も時々一緒に行っていい?」
「自分の分は払ってくれるならね」
けち、と言うと、母はけらけら笑った。

外は雨。
花を咲かせる、縁起のいい雨だ。

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