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上京して13年。よかったことは?

背が高いビルとビルの狭間の空間は、風が強くなる。息を吸うことが躊躇われるほどの熱風、息苦しさ。早朝の木の根元に、転がる若者たち。朝の爽やかな時間に、コンクリートの上に吐いたあと。据えた匂い。資産や所得で分けられる住まう場所。

何度も、東京のよいところを書こうと思った。だけど、わたしの方が教えてほしい。一体、東京で暮らすメリットって、なんなん?

本気で教えてほしい。薄っぺらい言葉を並べて、何度も東京でこんなよいことありましたーって書こうとした。だけど、書けなかった。13年も暮らしているのに、わたしは東京のメリットを享受していないのかもしれない。

13年は、子育てと仕事で占められていた。子育て中は、公園、児童館、病院、職場と自宅の往復。現在も、娘の送迎や学校見学などで、わたしは、わたしだけのために出かける機会が少ない。

娘が中3の現在、親として支えるピークなのではないかと思っている。高校生になったら、娘の世界は広がるだろうから。それまでは、濃縮されたような2人でいる時間を大切にしてもいいのではないかと思う。

結婚して、夫の転勤で東京に住んでいるのに、夫は、北陸地方に住んでいる。東京で暮らしているのは、わたしと娘の2人だ。

平日の昼間に、娘と新宿へ行く。2人で電車に乗っていると、斜め向かいの座席からママ友に手を振られた。わたしも笑顔で手を振り、軽く会釈をする。同じ駅で降りるけど、話しかけることはできなかった。「どうして、平日の昼間に娘さんと電車に乗ってるの? 学校は?」わたしは、その質問が一番怖い。

娘はある時から学校へ行けなくなった。そして、現在は通院しながら、学校とは違う適応指導教室へ通っている。定期的に病院へ通うから、高校も、娘の負担にならないようなところを探している。

不登校だからといって、進学先がないわけではない。東京にはチャレンジスクールといって、中学校のときに不登校でも通える高校が用意されている。

また、通信制の高校を選ぶときに、スクーリングと言って、定期的に登校しなければならないが、都内で全て済ませることができる。通信制のサポート校が都内の通える範囲にあり、スクーリングも都内だから、一人で行き来できる。

東京のよいところは、選択肢の多さかもしれない。

娘のメリットはそうだけど、わたし自身のメリットも考えたい。わたし自身は、田舎で生まれ育ったのだけど、結婚がなかったとしても、ずっと変わらず地元で暮らすのは、無理だったように思う。人間関係が固定されて、生きづらかったからだ。

東京では、たくさんの人に出会った。社交的ではない性格なのに、PTA活動をし、それとは別に、絵本の読み聞かせボランティア、子どもの見守りボランティアにも参加をした。

活動を通して、積極的に人と関わってきたのは、孤独が人間にとってよくないと知っていたから。その土地で暮らす人と仲よくなりたい。そんな思いもあった。

地元でずっと暮らしていたら、その行動力は生まれなかっただろう。コロナ禍と娘の不調を理由に、ボランティア活動は辞めてしまったけれど、今でも何人かとお付き合いが続いている。

東京の人は冷たいと言うけれど、そんなことはなかった。わたしのために泣いてくれた人もいたし、体調の心配をしてくれる人、なにか役に立てないかと定期的に連絡をくれる人もいる。

東京で出会った人の優しさに触れたとき、ああ、ここで暮らしていてよかったと思う。東京の人は優しい。


#上京のはなし

秋には干し芋を買って、12月までに新しい手帳を買いたいです。