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自分をさらけ出す勇気〜68歳から始めたYouTube〜


うちの実家にはガスコンロがない。

あのどこの家庭にもあるガスコンロが、ない。かといってオール電化とかオシャレな感じでもない。

ガスコンロがないのだ。18年間、ない。

18年前、父の事業が失敗してから、ガスコンロがない生活を送ることになった。それまではプロパンガスを契約していたのだけど、生活が苦しくなり払えなくなってしまったのだ。

それ以来、実家ではカセットコンロ生活を送っている。

兄が安定した収入を得られるようになったころ、

「お母さん、ガスコンロ買ってあげるから電器店に行こう」

そう誘っても母は首を縦にふらなかった。

「カセットコンロで充分だよ。節約にもなるんだよ」

兄の厚意も断っていたものだから、実家では今でもカセットコンロを愛用している。

ガス代は8人家族で月々3300円ほど。このガス代というのは、カセットコンロの代金になる。カセットコンロの代金が3300円(2023年1月現在)。他に卓上IHが一台あるが、メインで使っているのはカセットコンロのほう。

光熱費が値上がりしている今、これまでの節約生活が生きている。18年前、苦し紛れに始めたカセットコンロ生活が今になって生かされている。

人生は何がどう転ぶのかわからない。

18年という歳月を経て、“今” 生かされるなんてね。苦しかったことが苦しさで終わらずにすんだのは、18年間続けてきたから。

2020年ころから流行り始めた例のウィルスの影響で、私は帰省しづらくなり、実家に顔を出す機会がめっきり減っていた。

東京と秋田。お互いに離れて暮らしている母と私は自分たちの住まいをキレイにしようと、競うように整え始めた。

「どうせ会えないのだから、その時間を使って自宅を整えよう」

実家は古いキッチンではあるけれど、使っていなかったボウルやミキサーを捨てたり、入れ物を統一したりして、次々に整えていき、古いながらも清潔なキッチンになった。

母が片付け終えると、弟がこう言った。

「お母さん、YouTube始めてみたら」

最初は

「えっ、私が?」 
「自信がないなあ」
「誰か観てくれる人いるのかな」

後ろ向きな母だったけど、兄にも勧められたこともあり、徐々にやる気になっていった。私にも連絡がきた。

「YouTubeやってみようかな」

私は迷わず後押しをした。

「やってみたらいいんじゃない? お母さん、きっとYouTube向いているよ」

2022年11月の68歳から始めたYouTubeの動画が、1月には初めて7万再生を超えた。

人生には「上り坂」、「下り坂」、そして「まさか」がある。まさか、母が68歳になってからYouTubeを始めるなんて思いもしなかった。68歳からの、リスタート。

何かをやってみようと思ったときに、準備が整っていないと挑戦はできない。YouTubeをやってみようと思ったところで、もしもキッチンが散らかっていたら、撮影はできなかっただろう。

私は常々思う。何かを始めたいと思ったときに、整っている清潔な状態であれば、直ぐにととりかかれる。だからチャンスが生まれやすくなる。

目には見えにくい変化だけど、YouTubeの撮影をするときは、髪をきちんと洗って乾かして、決まった衣装(母曰く痩せて見えるらしい)を着て、動画を撮影している。

「キッチンの壁紙が薄汚れてリフォームできていない状態を人さまに見られるのが恥ずかしい」

「ガスコンロがなくて、カセットコンロで調理しているのを見られるが恥ずかしい」

ずっと、あれが恥ずかしい、これが恥ずかしいと言っていた母。でも、そんなときに少しだけ勇気を持てたのは間違いなく、3年かけてキッチンを整えてきたお陰だと思う。

終活の一貫で始めたYouTube。最初は全く考えていなかったのに、今では『もっとたくさんの人に観られるにはどうしたら良いのだろう』そう試行錯誤している。編集も楽しんで自らしている。

清潔にすることは新しい変化を生む。清潔にすると少し勇気が持てる。母の「清潔のマイルール」は、直ぐに調理できるように、キッチンを整えておくこと。

母は、これからもキッチンを整えていくだろう。家族のために、いつでも美味しい料理を作れるように。


食事の支度をすることは、何気ない普通の日常だけど、間違いなく家族の健康を支えている。

同じように結婚して母になった私にはわかる。

「毎日ご飯の支度をする」

それが尊いことで、決して当たり前ではないということを。



※ このnoteに出てくる動画・画像は母の了承を得て投稿しています。


秋には干し芋を買って、12月までに新しい手帳を買いたいです。