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音を混ぜるということ

チェンバロに夢中になったのは

音が空中に放り出されて消えるまでの軌跡がよく見えるから
ぽんと空中に投げられた音は滲むように膨らみそして尾を引いて消えてゆく

その軌跡は楽器によって、また弾き方によって変わる

音は曲の中で次々に生み出され、様々に重なりながら消えてゆく
瞬間ごとに色を変えて

それは大好きな日没のころの空のよう

その重なりを聴くのが
そしてその色合いを指で作り出す作業はなんて楽しい事だったか

今鳴っている全ての音
それをどんな色合いにしてゆくのかは
指を上げるタイミングや速度にかかっている
鍵盤の1cmもない振り幅をどんな速度で上げてゆくのか
プレクトラムが「チッ」と鳴って音を切るまでの時間が曲の大きな時間の流れを作る(響板の響きはまだ残っているけど)

ピアノはペダルがあるので、楽に音を残していけるけど、音の響きの繊細なコントロールが聞こえにくい
(でもピアノにはもっと他の圧倒的な魅力があるから)

けれどシューベルトなどピアノの発展の過渡期の作品には、チェンバロ的な指使いで響きを残すフィンガーペダルが美しいなと思う所がある
シューベルト大好きなんだけど難しいな


F.クープランの「ノンムジューレ」と呼ばれる、小節線のない自由なプレリュード

これに出会ったときは指で響きをコントロールする楽しさに夢中になった
このクロマティックで光と影を複雑に孕んだ曲に有機的なエネルギーを与えて命を灯すような

それはなんてわくわくする
そして魂を吸い取られる時間だったことか


もうチェンバロは弾かないって決めたけど

でも魂を吸い取られる時間は続いている

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