広い空のある場所
土曜日の半日の授業を終えて単線の私鉄に乗ってあおいは帰宅する。駅を降り月ぎめの預り所から自転車に乗り運河に架かる橋を渡ると、小さな頃から住んでいる小学校区に入る。米の集積場があり、水田があり畑作地がある。昔この辺りで牛を飼っている小屋があった。いつの間にか目にしなくなったなあ。ほぼ海抜ゼロメートルの細い農道をペダルを漕いできみは進む。ぼくはそんなあおいの、きみの背中を追いかける。きみはまだこれからたくさんのことを学ぶ。きみのことを揶揄する人間も現れるかもしれないし、もうそういう体験をしているかもしれない。傷つけられるかもしれないし傷つけるかもしれない。大切なのは自分がするほうにまわることもあるかもしれないということを理解しておくことだ。たぶんたくさんの時間が過ぎるけれど。ぼくはいつもきみのことを見てきたけれど、それでもわからないことの方が多い。きみは家に向かう坂道を上り額の汗を手の甲で拭いながら空を見上げる。積乱雲がそこに聳えているのが見える。あの向こうにきみは何かの存在を感じているかもしれない。そこにはいつも変わらず空と雲がある。そのことがきっときみのことを支えるだろう。なにかあったらそうやって空を見上げるといい。答えはそこにはないかもしれないけれど、きみは明日も生きようと思えるかもしれない。
あおいは広い空が見える場所が好きだ。青く高い空を見上げてふとそう思う。
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