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いちばんぼし


日が沈んだあとの東の空に木星が見える。一番星だ。

真っ暗になってからもなお他の星たちと比べて一際明るく輝いている。

なんとなく、ただなんとなく、一番星は金星だとばかり思っていた。

もちろん金星も地球や木星と同じように、恒星である太陽のまわりをそれぞれの公転周期で回っていて、金星ならそれが夕方に見えたり朝方に見えたりする。見えない時期もある。ある期間ずっと夕方に見えていた金星が、気がつくと見えなくなっていて、次に気がつくと日の出の前に見える。

そんなことを体感として知っているのは、ノンの散歩をするからだ。

今、木星が見えるその時間の西の空に、金星は見えない。

金星は地球よりも太陽に近いから、見える時には朝でも宵でも太陽のある側にその姿がある。

地球よりも太陽から遠い木星はその逆なのだ。

イチバンボーシーミーツケター

と誰かが最初に声をあげたときに見えていたのは金星だったのか木星だったのか、他の星だったのか。

太陽金星地球火星木星土星そして月、このあたりの肉眼で見える惑星と衛星の位置関係は、詳しい人に説明してもらえればそのいっときわかるかもしれないが、一人でそれらを見ていて位置関係を頭の中だけで正確に掴むのは難しい。

何でも知ってそうなノンも、教えてはくれない。

最初に誰かが声をあげると、いっしょにいる皆がその星のある方に目を向ける。

それがなに星かを物知り顔でひけらかすわけではない。

やがて他の誰かが、あ、ニバンボシミッケ、とか言い出す。

その頃にはもうほとんど同時にサンバンもヨンバンも見えるようになってくる、暗くなる。

三々五々、家路につく。

バイバーイ。マータネー。

そんなやりとりは、秋のできごとだったんじゃないかと思う。

そして木星も金星と同じように知らないあいだに見えなくなるんだろう。

バイバーイ。マータネー。



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