とんとんとん
と、小太鼓のような、バケツをひっくり返して底を木の棒で叩くような音がしていた。雨降りの日だった。
まだ父親と暮らしていた家の仏間だったから、それは小学校に上がる前のことだったと思う。
とんとんとん
は、どこか恐ろしい音のようにも聞こえたし、リズミカルな遊びのようにも聞こえた。
母に尋ねると、あれはあまどいのおとだ、と教えてくれた。そう、あまどいのおと?
雨樋の音だというのはわかったし、雨樋がどういうものかは知っていたけれど、じゃあとんとんとんはどういうしくみで鳴るのかまではイメージできなかった。
母に聞いた以外は、一人でその部屋で聞いていた。いつまでも鳴る。それを聞く。リズムを聴く。
雨の日になると鳴る。それは外の強い雨音を消すほどの大きな音だった。
しばらくしたある時、その音がとても小さなものになっていた。外の雨音の遠くから聞こえてくるような。
母に聞く。
ほらあの音、前より小さいよね?直したの、あまどい?
ほんなことはない、前とおんなじだ。
そうかな、すごく小さく聞こえるんだけどな。去年はもっと大きかった。
今なら、初めて聞いた時は印象が強くて、本当よりも大きく響いているような気がしたんだろう、と想像がつく。
それ以来、雨樋の音を聞くことはなくなって、やがてその家にも住まなくなった。
☔
雨の降る朝にノンと散歩をしていて、古い家の前を通りかかると、とんとんとんと聞こえてきた。低い軒先に雨樋が見えた。ブリキか何かの金属でできた雨樋の、段差のある継ぎ目で上から下に落ちる雨水が音を立てていた。
その家のなかでは、とんとんとんはどんな風に聞こえるのか、想像してみた。
子どもの頃を思い出してみた。
☔
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