短篇小説「天使の林檎」解説

テーマ:生活
モチーフ:林檎、天使
語り手:三人称(全知全能)、一人称(主人公)
(焦点は1段落目が神目線、2段落以降が主人公と神の両方)
文体:文学的(母スタイル)
セリフと語りの割合:1:9
批判:生きることが必ずしも正しいとは言い切ることができない。自分以外の人間の生に執着することはエゴである。他人(自分以外の人間を指す)への精神的依存からの解放。
影響論:江國香織

本作品におけるテーマは「生活」です。そして一人の女性が生活の中で、彼女なりの地獄と向き合う過程を描きました。生きていく中で、何かを無意識のうちに惰性で繰り返したり続けたりすることは自然な現象です。しかし主人公の様にそこから脱すること、それが惰性であると気づき違うものを求めることで、生活に少しの豊かさを加えられるのではないかと思います。
物語の時系列は、主人公の現在を中心に過去の回想を入れ込む形式を取りました。更に、感情描写が多い前半に対し物語の進行と共に後半では情景描写を増やしていくことで、読者が主人公の現在をより現実的に感じられるように意識をしました。また、言葉の使い方は一貫して江國香織の影響を受けていると言えますが、主人公と恋人の描写での“全身が満ち足りて、全てにおいて何の不足もないのだと信じられた。”という文章はこの作品の中で唯一江國香織を意識して使った言葉です。故意に似せた理由は幸福感を淡々と語ることで、恋人の存在が生活に馴染み当然の存在である様子を伝えることに江國香織が長けており、彼女の文章を読んで得られる感情と似たものを読者に伝えたかったからです。更に、敢えて江國香織らしい文章を使うことで私の書く文章の特徴が却って見えてくることを狙いました。

最後に、物語を構成する際や書き起こす過程で、自然とモリソン先生に教わった“モチーフ”や“批判”などが組み込まれていることに気づきました。授業で学んだことを自分の作品に生かせたことを嬉しく思います。

いつかモリソン先生への恩返しとなるような物書きになります。5年間の感謝と愛を込めて。

吉岡雨

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