SPC設立から推察するMBOの予兆
1.はじめに
先日証券取引等監視委員会から以下の注意がリリースされました
要は「MBO時に設立されるSPCの名称等からMBOの予兆を推察可能であり、設立時の名称等に注意しましょう」というリリースです。では、実際にSPC設立からMBOを推測可能なのか検証してみました。
2.アイ・オー・データ機器のケース
アイ・オー・データ機器(証券コード:6916)は2022年2月9日にMBO推奨を発表。非公開化により代表取締役会長かつ筆頭株主である細野昭雄氏の下で経営改善を行うとのことです。公開買付者は細野昭雄氏が100%支配する株式会社AHCです。
さて、このAHCはMBOに先立って1月24日に設立されたSPCであるわけですが、所在地(石川県金沢市上堤町1番35号)を検索してみると、どうやらアイオーデータ機器の大株主である有限会社トレントと同様であるようです。
国税庁の法人番号公表サイトから、同住所を検索するとAHCが結果表示されます。
仮にアイオーデータのMBOの予兆を何らかの手段で知り、トレントの住所を張っていた場合、1月27日にAHC設立登記→アイオーデータ株の買付→2月9日MBOの発表となり、発表による急騰で大きな利益を得ることが可能です。
実際株価の推移をみると、1月28日から急騰しています。同期間で特に会社からリリースがない以上、予兆に気がついて買付を行った投資家がいたということでしょう。(インサイダーを疑われそうな雰囲気がありますが…)
仮に1月28日時点で買い付けていた場合、同日の終値は720円、TOB応募価格は1300円ですから、+80.5%のリターンを得られる計算になります。
3.ダイオーズのケース
先ほどは創業家によるMBOのケースを考えましたが、PEファンドにおけるMBOの場合はどうでしょうか。PEファンド・インテグラルによるTOBが発表されたダイオーズのケース(証券コード:4653)を見てみます。
ダイオーズの公開買付者は、株式会社ボイジャーでインテグラルの完全子会社ですね。
さて、ボイジャーの代表取締役、水野謙作氏はインテグラルのパートナーです。また、所在地(東京都千代田区丸の内一丁目9番2号)は、インテグラルのオフィスと一致しています。
同じくインテグラルによるシノケングループに対するTOB・ベインキャピタルによるトライステージのTOBにおいても、SPCはPEファンドのオフィス所在地に置かれており、PEファンドによるMBOでは一般的な手法のようです。
さて、先ほどの国税庁のサイトにインテグラルの住所を入れると、先の二つのSPCが出てきました。おそらく関係のない企業も入っていることかと思いますが、この検索機能を使えば、インテグラルがSPCを設置したことがわかるでしょう。また、ベインキャピタルの場合は「BCJ-○○」という形でSPCを設立しているようです。
4.検証結果
以上より、SPCの名称等からMBOのタイミングを事前に推測することは(もしMBOがありそうという情報を持っていれば)可能だとわかりました。
しかしながら、MBOは創業家や経営陣の一存で決定されることも多く、住所や名称を日々注視してMBOを特定するのは、個人投資家にとってはなかなか難しいでしょう。また、PEファンドを噛ませる場合は(上場企業よりも相対的に数が少ないため)比較的簡単にMBOの予兆を知ることはできますが、そのPEファンドがTOBを行うことはわかっても対象企業を判明させることは困難でしょう。
現実的な活用方法としては、例えば株価が理由もなく急騰している場合に、創業家や経営陣が株式を多く保有しているなど、MBOが可能な株主構成であるかをチェックし、会社の住所や大株主の住所で新規の法人が設置されていないかチェックするといった形でしょうか。
ただ、会社の所在地がオフィスビルだった場合、関係のない新会社が設置されている可能性もあるため、確証は難しそうです。
今回の警告がリリースされたのは、インサイダーが判明した際に「SPCの名称等からMBOを推察した」という言い訳をしたからでは?という見解もあり、実際に活用するのはかなり難しいと思います。