サークルスペース前に一時間無言で立っていた見知らぬゴスロリとTDLに行ってから10年経ちました

素人が何言ってんだと思われるかもしれないが、素人のやってる同人サークル、二次創作でも、活発に活動しているとそれなりにファンがついてくれたりする。ファンといっても純粋に同人作家の作品が好きというより、あくまでもキャラクターや原作ありきってとこは一言申し述べておきたいところですが、その辺の機微はnoteで「同人」「腐女子」と検索していただければ詳しい記事が山ほどでてくるので仔細はそちらへ。それはそれとして、私にもそこそこ、毎回イベントに参加する度に、サークルスペースに訪れてくれる常連さん的な方ができていた。お手紙をもらったり、差し入れをいただいたりもした。

ある日、たぶんちょっと大きなイベントだったと思うが、そこそこサークルに人が来てくれて、ちょっとした列になっていた。(当時はサークル前に列ができて二列対応なんてこともあったのだ)。めちゃくちゃ印象的な服装の人が来た。黒のドレス(まさにドレスだった)にコルセット、たぶんベルベットとサテンとレースに全身包まれたいわゆるゴスロリというやつだった。なんと頭には鳥かごが載っていた(ヘッドドレス?)。彼女は当日の新刊を買ってくれた。小説本を渡してお金をもらった。

「あの、前回の本すごく面白かったです」
「あっ、ありがとうございます」
「この本もすごく読むの楽しみです」
「嬉しいです! 入稿ギリギリだったけどがんばりました」

ありがたい感想などいただき、2〜3言会話をした。後ろに結構列が伸びていたので、すみません、ありがとうございますと言って後ろの方のお会計をした。次の方も本を選んで待っていてくれたので、その次の方のお会計もした。ゴスロリの彼女はまだそこに立っていた。イベント慣れした買い手さんたちは、自然に二列に並んでくれていたので、彼女のコルセットの横から手を伸ばして、片方ずつ列をさばいて会計をした。まだ彼女はそこに立っていた。

「あっ、すみません! ちょっと列が長くなってきちゃったので、ちょっと場所を空けてもらっていいでしょうか?」
「あっはい! 気づかなくてすみません!」

 彼女は10センチほど横にずれてくれた。隣のサークルさんとうちのサークルのスペースの合間にはまるみたいに。隣のサークルさんはたまたま空いていた。

「あっ、すみません、お隣の邪魔に……」
「あっ、そうですよね。ごめんなさい!」

彼女は五センチほどこちらにずれてくれた。私は隣のサークルさんを見た。すみませんと思ったが、隣のサークルさんは何故かうなずいてくれた。仕方ないのでそのまま頒布を続けた。売り子が私一人だったので、結構列がさばけるのに時間がかかった。しばらくして列がなくなり、また少し時間が経って、列とはいえないが人だかりくらいでき、また人がいなくなった。彼女はまだそこに立っていた。化粧が完璧だなあと思った。彼女との間に会話はなかった。隣のサークルさんに何度か頭を下げた記憶がある。

結局、彼女は一時間くらいスペースの前にいて、「あっ、じゃあ」と言って帰っていった。

そんなことが三回くらいあった。赤ブーちゃんが毎回ジャンルオンリーを開いてくれたので、私は毎回イベントに出た。そしてゴスロリの彼女は毎回スペースに来てくれた。そして毎回一時間ほど無言でサークルスペース前にたたずんでいた。

売り子さんがいてくれるときもいないときも、彼女はスペース前にたたずんでいった。毎回完璧にキメたゴスロリだった。パニエのボリュームがすげえなと思っていた。隣のサークルにはみださないように気をつけるようになったので、毎回一列頒布になっていた。彼女がまた新刊を買いに来てくれたので、なんとなく声を掛けた。

「あのー、今日イベント終わったら売り子さんと一緒にお茶に行くんですけど、一緒に行きませんか?」
「えっ、本当ですか!?」

彼女は帰ってくれた。おかげで頒布ははかどった。当時はイベント終了の音楽が鳴るまで頒布を続けることを原則にしていたので、三時になるまでスペースにいた。ゴスロリの彼女は戻ってきて、イベントの撤収を手伝ってくれた。その後確か新橋のホテルでアフタヌーンティーをしたと思う。ゴスロリの彼女はお茶の席では普通にしゃべった。変わったひとやなあと思ったが、まあまあ楽しいイベントアフターだった。

たぶんその二週間後、子供を連れてディズニーランドに行くことになった。子供は発達障害があり、かなり相当気難しくて、当時5歳だった。まだおむつが外れていなくて、てんとうむしのお気に入りのリュックに、自分のおむつと着替えを入れて背負っていた。発達障害の子供が唯一外に遊びに行きたがるのがディズニーランドで、当時子供と離れて暮らしていた私は、なるべく機会を作って子供を遊びに連れて行ってやりたかった。しかし困ったことに、旦那も発達障害であり、こちらはディズニーランドのキラキラした色彩と音楽に気持ちが悪くなるタイプである。実際子供が乳児の頃に一度一緒に連れて行って倒れ、連れ帰るのが大変だった。子供はパニックを起こすと地面に転がって泣きわめき、一歩も動かなくなるので、そんな時は荷物と子供を抱えて腕力で撤収しなければならない。三歳くらいまではそれでもよかったが、五歳にもなると体重が重く、一人で撤収が難しい。一緒に行ってくれて、しかもアトラクションを後にして手伝ってくれる人手が必要だ。そういうわけで、子供の事情をわかっていて、一緒にディズニーランドに行ってくれる友人が涙が出るほどありがたかった。申し訳ないのでディズニーの入場料と旅行中の食事代くらいはこちらが負担したが、よくぞ付き合ってくれたと思う。

その時のディズニーランド行きも、確か一泊の予定で、関東住まいの友人がありがたくも付き合ってくれることになっていた。なので、なんとなくゴスロリの彼女に電話してみた。アフターでお茶に行ったときに、電話番号を交換していたのだ。

「あのー、来週ディズニーランドに一泊で行くんですが、よかったら一緒に行きませんか?」
「えっ、本当ですか!? 行きます!」

彼女に子供のことを説明した。パニックを起こすかもしれないこと、泣き出したら手伝ってもらわないといけないこと、チケット代は負担するがそのほかの費用は負担してもらわないといけないこと、アトラクションやパレードの途中でも撤収しなければいけない可能性があること。彼女は全部聞いて行きますと言ってくれた。なので次の週に一緒にディズニーランドに行った。

ゴスロリの彼女は、たぶん子供の扱いがうまいとか子供に好かれるタイプとかいうのではなかったと思うのだが、めったやたらと気難しい私の子供とはうまくやってくれた。自閉症らしく、理屈っぽくしゃべり出したら止まらない子供の話に延々と付き合ってくれ、子供がわかりづらいこだわりでアトラクションをえり好みするのに付き合ってくれた。

次にディズニーランドの計画を立てたとき、子供が彼女も一緒に来て欲しいと言った。私もそう思ったので、彼女にメールして、ディズニーに誘った。彼女は来てくれた。それから毎年一緒にディズニーに行った。

というわけで、10年経った今もゴスロリの彼女とは友人です。


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