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【Web3書籍紹介】『メタバースとWeb3』(MdN)

本の情報

書名:『メタバースとWeb3』
著者名:國光宏尚
出版社:エムディエヌコーポレーション
ISBN:978-4295202813

https://amzn.to/3cs7PO6

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こういう人にオススメ!

  • 机上の空論ではなく、身銭を切った事業家や投資家の思考や視野を知りたいという人

  • 論文的なファクトよりも、金額や市場成長といったビジネス数値に重きを置いてWeb3を読み解きたい人

  • 「よくわからんがすごい!」という感動を冷まさずにおきたい人

総評

 いわゆる「國光ぶし」で最初から最後まで貫かれた一冊。著者について、ソーシャルゲーム前夜から、上場経験を経てなおベンチャー魂を忘れずに新分野に邁進している人物だという点は、読み解く上での補助線として最低限知っておいたほうが良いと思われる。

 というのも、他の書籍がWeb3について社会思想や哲学に近いアプローチで非中央集権的な世界を切り取るのに対し、本書は市場、投資、企業といったビジネス観点が無いページを探すほうが難しい。Web3が何の役に立つの? という常に向けられる問いに対し、数字が成り立たないふわっとした回答を許さない空気に満ちている。

 冒頭から『これまではリアルが”主”、バーチャルが”従”だったものが、これからはバーチャルが”主”、リアルが”従”に変わります。それがバーチャルファーストという次世代の社会です。』(P.3より)と、メタバースは多様性であるとか、メタバースそれぞれがプラットフォームなのでそれを行き来するためにNFTが役立つというような話は些末なこととばかりに、読者をガツンと殴ってくる。

 その後も『MR、XR、ミラー・ワールドと言葉が雑然としてきてよくわからなくなっている、という感じなので、それらをリブランディングしたのがメタバースなのです。ちなみに、Web3は仮想通貨、暗号資産、ブロックチェーン、クリプトのリブランディングです。』(P.19より)など、普通ならもったいつけて例えば「それぞれは違うものであって、これらを総称して一般人はメタバースやWeb3と呼ぶのである、我々はわかっている、きみたちはわかっていない」というような上から目線の解説してしまいそうなものだが、用語なんて単にビジネス的な聞こえの良さでみんな使ってるだけですよ、と一刀両断している。

 こういった快活さに背中を押され、これまで難しそうだったWeb3について、肩ひじ張らずに読み進められる気がしてくるはずだ。

 そして「バーチャルファースト」というキーを、ビットコイン、イーサリアム、NFT、DAOという錠に差し込んで回すと、あっという間に理解の扉が開く。確かに、ビットコインはバーチャルだけで完結する通貨(カレンシー)だし、DAOはバーチャルファーストな組織だ。

 また、メタバースでありがちなVRやARの要・不要論を繰り返すのではなく、『メタバースで決定的に重要なのが「センス・オブ・プレゼンス」=実在感。いま、そこに「いる」感じです。』(P.24より)とし、Zoom飲み、もうやってる人いませんよね、と読者のほうをチラリと窺ってくる。

 こういった共感を誘う語り口のそばで、『「片目で4Kずつの解像度が実現するとバーチャルとリアルの区別がつかなくなるといわれています。』と技術的な話題が身近な尺度で滑り込んでくる。どんな技術が達成されれば、こういう未来になる。既定路線である。それを語るのにうだうだと長い話をしない。

 このテンポ感が最後まで続いていく。Web1.0やWeb2.0で起こったこと、私たちが日常的に使うようになったインターネット上のサービス、ソリューションに対しても含みを持たせないで説明するので「こういう見方があったのか!」といちいち驚く余地はない。そういう物の見方をしてこなかった自分を恥じてしまうだろう。

 解説書を書くときに、複雑な仕組みを説明するのに「例え話」の才能が問われ、その上手い下手で読者の理解度は大きく変わる。だが、本書に限っては現実にあるものを「これもそうですよね」と並べるため、読者が例え話に相対しながら想像して重ね合わせる労力は不要だ。

 そういう展開の中に、さらっと著者の未来予測が差し挟まれる。おおむね「20年後」が予言されている。

 多くのWeb3書籍を読むにあたり、胡乱な話題も多い題材のため、ぼくは「著者はどういうことを読者への誠実さと考えているのだろうか」というのを一つの読み解くポイントとしているのだが、本書の場合は、難しいことは難しい、無いものは無い、と包み隠さず書いているところがそのポイントで、それが机上の空論ではなく、市場が示してきたもの、他企業が実践してプロダクトにしているもの、自身が身銭を切って事業化しているものに立脚しているところに要諦があると考えている。

 とはいえ、本当に未来はそうなっていくの? という疑問が読者に生まれることは否めない。著者には確実に現代と未来は当然に地続きになって見えているはずなのだが、読者には決定的に経験が足りず、数字が伸びるさま、技術が進歩するさま、ドラスティックに生活が変容するさまを、当事者としてそこに立っていたことがないのだ。変わりゆく世界のただ中にいて、これまでもそうしてきたはずなのだが、漫然と過ごしてしまっているので一切言語化できないのが我々だと言ってもいい。

 だから、延長線上を想像するのが難しく、読者の心のうちにその疑問が発生する。本書のどのチャプターにおいても、丁寧に卑近な例を挙げてそこを補完しているのだが、たとえばFacebookやinstagramを使うにあたって、ビジネスモデル、サービス構造、ソーシャルの効果、ユーザーが得ているものは何か、こういうことを考えながら使っている人は皆無だろう。それくらい、著者と読者にある乖離を埋めるのは難しい。

 むしろ、この本を読んでWeb2.0時代の構造を気づかされる人は多いと思われる。

 その的確ながらも独特の視点に引き込まれつつも、現代的なWeb2.0を理解し、ビジネスに立脚しているといえる。ビジョナリーの視点を学べる稀有な書。

主な章の紹介

 独特のテンポ感が幹にあるので、内容を列挙したところで本書の滋味を余さず伝えることはできないのは承知で、参考とされたい箇所をピックアップ。

CHAPTER 1

  • 2000年代から、GAFAMがいつ、どのような分野にチャレンジし、どんなビジネスモデルをもって伸びたのかという俯瞰。

  • デバイスのパラダイムシフト。スマホ、ソーシャル、クラウド。それぞれスマホはVR、AR、MRに、ソーシャル(=データ)はブロックチェーンへ、クラウド(=データの活用)はAIへ加速していくと説く。

CHAPTER 2

  • 昨今の拡大するメタバース市場を、Meta(Facebook)、マイクロソフトを例に取り上げ、メタバースを支えるテクノロジーを解説。

  • メタバースが生活に浸透するロードマップとして「①世界中のゲーマーを取り込めるか」「②タブレットやPC市場(職場や学校)を取り込めるか」「③ポストスマホ(ARグラス分野)」を挙げ、具体的な市場数値をもとに拡大する規模感と近い将来に登場するものを見据える。

  • コミュニティを大別して「①リアルの友人とつながるもの」「②趣味などを通じて、リアルとは違う関係でつながるもの」とし、レゾリューション(解像度)とレスポンス(インターネットは遅い)の足りないビデオミーティングとの比較から、メタバースにおいてリアルな世界をそのまま再現することにはほとんど意味はないと看破。

  • メタバースは一つ一つ(プラットフォーム)がコミュニティであるとし、外見、性格、コミュニティをそれぞれ「選んで」生きていける社会である。

CHAPTER 5

  • 身近で具体的な事例として「バーチャルライブ」「ファッション・旅行業界」「金融とGameFi」「バーチャル渋谷(VR)」「クラブトークン」「巨大資本とWeb3」を、詳細に解説。リアルに今何が起こっているのかを伝える。

  • 用語集! これは有難い。

(以上)

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