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電子レンジ(オーブンレンジ)の話 byさわけんシェフ

今、世の中ではキッチンに入りきらない程の調理家電やキッチングッズが売られている。
そんな便利なキッチングッズがどこから来てどこに行くのか?
科学する料理研究家でキッチンまわり評論家でもある“さわけんシェフの考察”を交えて語っていきたいと思う。
今回は電子レンジからオーブンレンジの話!


**発明**


電子レンジの発売は1947年のアメリカ「レイセオン社」によって製品化されたレーダーレンジが世界で最初の電子レンジだ。
なぜレーダーレンジかというと実はレーダー装置の実験中に胸ポケットのチョコバーがマイクロ波で溶けることに気づき、それを応用して食品用の電子レンジを作ったのでレーダーレンジと言う名前になった。
チョコレートとはなんとも微笑ましい話だが、このレーダーの実験は兵器としての航空機レーダー実験なので背景を考えると微妙な感じだ。
ま~戦争がきっかけで科学技術が発展する事も珍しいことではないし、レーダー実験で便利な電子レンジができたのだから素直に良しとしよう。
因みに日本でも戦時中にレーダー実験を行う事があったらしく、その際は「近くにさつま芋を置いておくと火が通る」と言う話があったようだ。
これは既に電磁波を利用して調理していると言う点で一歩先を行っていが、商品化へと繋がらなかったのが惜しい所だ。

**日本発売**


日本での電子レンジの発売は1960年代。
最初は東芝の業務用で今の冷蔵庫ほどの大きさがあり、値段も125万円と高く国鉄など限られた場所での使用だった。
調理的には火を使わずに食品が熱くなるのは夢のような機能で、国鉄や新幹線などのビュッフェ車に採用されたのは納得できる。
当時ビュッフェ車といえば石炭レンジが使われており、点火に時間がかかるし煙突の掃除も大変、揺れる車内で料理人はやけどが絶えない過酷な環境だった。
電子レンジなら冷たく保存していた料理を短時間で温められるので、やり方次第で衛生的にも時間的にも安全性も大いに戦力になったと思われる。
ただ料理人からはステーキが焼けないなど不満が多くでたと言う話だ。
そりゃ普通にフライパンが使えて材料を焼ける器具の方が、料理人としては上手く美味しくできるから当然といえば当然だ。
因みに当時ビュフェ車といえば贅沢なもので、料理人がステーキなど豪華な料理を作っていた。
しかし電化とともに料理が簡素化されて「料理を作る」と言うより「温める」になり、それだけではないだろうが優雅な列車の旅の象徴のビュフェ車が廃れていったのは残念だ。

**家庭用の登場**


家庭用の電子レンジは1965年「電波で新しい味」「すばやく楽しいホームクッキング」と言うキャッチコピーで発売されたが、実際に使われたのはパン屋さんのホットドックの温め直しなど実質的に業務用であった。
本格的な家庭用機は翌年1966年にシャープがターンテーブル式で発売した。
電子レンジのマイクロ波を作り出すマグネトロンの欠点は庫内に満遍なく電波をあてられず、加熱ムラがあることだ。
その欠点をターンテーブルで解決したのは単純で面白い。
サイズ感は電子レンジ単体で今のオーブンレンジより少し大きく縦開きで庫内小さめという結構大きなものであった。

その後、無音だった終了のお知らせにチンという音が採用されて「電子レンジといえばチン!」という流れになる。
因みにチンは温め終わった時にお知らせがないと、そのまま忘れて放置してしまうというクレームに対応した結果、自転車のベルのチン!を使ったそうだ。
この時チンじゃない音だったらどうなっていたのか?
ブーだったらレンブーだったのかと考えるとなかなか面白い。

**進化と転換点**


1972年に横開きになり、冷蔵庫上でも使いやすくなる。
今の家庭の冷蔵庫のサイズ(400L以上)だと冷蔵庫の上に電子レンジを置いてしまうと届かないが、当時の冷蔵庫はまだまだ高価で家庭では小さい物が主流だった。
冷凍庫が独立して2ドアになり、野菜室ができて3ドアになったばかりで冷凍食品も実質無かったので小さくてもよかったのだろう。
そんな冷蔵庫上に置くために採用された横開きは電子レンジの定番の形になる。

1976年には電子レンジの価格も下がって6万円程度で買えるようになり、一般家庭にも普及し始める。
1979年にはセンサーの進化が進み、それまでは手動で分量を見て時間をセットしていたのがオートモードでの加熱が可能になる「センサーオーブンレンジ」が登場してかなり売れたようだ。
精度は不明だが使う側からすればこれは大きい変化だ。
温めすぎや加熱不足を使い手が調整していた手間を省く方向に進化して、後の自動調理につながって行く。
このタイプの電子レンジは今でも電子レンジ単機能機として残っているので一つの完成形でもある。

1977年は進化というか省スペース化というべきか、オーブンとの融合を果たし、今のメインストリームとなるオーブンレンジが誕生する。
パナソニック製でお値段は15万円。
内閣府の消費者物価指数を見ると1977年は2015年と比べて63.9%なので、15万円のオーブンレンジは2015年に換算すると23万円程度と今の最新ヘルシオよりも割高な物だった。

その後、蒸し器機能やホームべーカリー機能が付いたものなど様々な付加機能が開発されたが定着することなく消えていき、タッチパネルや音声ガイドのついた自動オーブンレンジはブラッシュアップされて進化していく。

**加過熱水蒸気**


これはヘルシオの話になるが他の追随を許さない技術なので書いておく。
ヘルシオは2004年に「水で焼く。21世紀調理器、誕生」というキャッチコピーで発売された。
水で焼くとはヒーターではなく「加過熱水蒸気」で焼くと言う新技術で、ざっくり説明すると加過熱水蒸気は普通の水蒸気(100℃)をさらに加熱して熱くした水蒸気の事。
これを食品に噴射して水蒸気の熱を食品に吸収させて火を通すのが加過熱水蒸気オーブンなのだ。
何がいいかというと加熱には空気を介するより蒸気の方が食品に伝える熱量が多く、その分早く焼ける。
そして熱を吸収された加過熱水蒸気は水に戻り、食品が乾きづらくなり、脂や塩分が落ちるのもヘルシー志向の料理に大変良い結果をもたらすのだ。
発売時の売り文句にはビタミンcが残りやすく脂と塩を落として食べようという「健康」を全面に押し出し、これが大ヒットして他のメーカーも水蒸気を入れるようになった。
使ってみるとヘルシオは仕上がりが早く自動調理の加減も良い。
特に焼き魚(干物・西京焼きなど)は焦げずにしっかり火を通し、程よく水分も抜けて味が濃い。
グラタンは水分蒸発が少なくしっとり美味しく焼ける。
これを手放しでやってくれるのはとても楽で美味しさも抜群なのでぜひ試して欲しい。

**現在と未来**


現在、電子レンジ単体は6000円程度の低価格〜4万円程度で市場にあり、高価格帯は自動調理などソフトウエア的な進化をしている。
しかし電子レンジだけでは自動調理と言っても料理としては限定的になるので、自動調理の進化を求めるよりセンサー技術や照射技術を磨いてバッチリ解凍や温度指定温め、数箇所を集中的に温める等を極める、または全てを削ぎ落として価格を抑えた方が生き残れる可能性が高い。

オーブンレンジは自動調理に突き進みスマホ連動でレシピが増えている。
レンジでレシピ検索ができてレンジの指示通りに準備すると料理の加熱パートは自動で完了するようになってきた。
自動調理自体は昔からあり、10年前のオーブンレンジでも100種類以上はあったが仕上がりがあまり上手くできないものや時間のかかりすぎるレシピも多かった。
その辺りはかなり良くなり、例えば茶碗蒸しなどは普通に蒸し器で作ると火加減や蒸し加減をしっかりみながら作らないといけないが自動メニューならボタンを押したら加熱パートはレンジがやってくれて時間もそれほど長くなくなってきている。

つい先日の話だが、5台くらい集めて茶碗蒸しを作ったら調理時間は25分程度とかなり改善されていたので「これは使える」と言う事になった。
茶碗蒸しが手放しで25分で火口も使わず失敗なく出来上がったらかなり便利だ。

他の自動メニューも使えるものが多く、どちらかと言うと付属レシピのクオリティーの方に問題があるものが気になってくるくらいだ。
こうなると「美味しい使えるレシピがあるかどうか」と言う“レンジ機能とは直接関係ない部分”がレンジを選際のぶ基準に入ってくる。
性能はカタログである程度は分かるが付属レシピの味や使い勝手まではなかなかわからないので、オーブンレンジ選びはちょっとカオスな状況になってきた感じだ。

そしてこの先の進化を考えるとレシピ以外ではハードウエアの進化はあるかもしれない。

現在電子レンジのマイクロ波を作っているのは小型で安価な加熱用マグネトロンだ。
これは安価だが500時間~1000時間が寿命であり、狙った場所への照射ができずムラがあるという欠点がある。
これに代わりそうなのが半導体式の発振器だ。
半導体式発振器(SSAP)は20年ほど持ち、なおかつ制御がしやすいのが特徴なのだ。
これを使えば狙った場所を温められる電子レンジが製作可能になる。

上智大学の堀越智教授の実験によるとコンビニ弁当を温めるときにスマホで温めたい場所を設定して、そこだけ熱くするなんていうことも可能になりそうだ。
そうなるうと弁当の開発にも変化が現れて、より適温で漬物やサラダが温まらないコンビニ弁当ができるかもしれない。

ま~マグネトロンでも一日10分の使用で8年~16年は持つ計算なので、コンビニなど業務用でもなければ安価なマグネトロンでも良い気もする。
そう考えると半導体式振動器は狙ったところが温められるのはすごいが、果たしてそのような未来が来るかどうかコスト的には微妙なところではある。
あるとしたら半導体式振動器がさらに安くなり、他社を出し抜く強気のマーケティングが開発より先行し、クリティカルなキャッチコピーができた場合にはありえるかもしれない。


参考文献
0)https://pweb.cc.sophia.ac.jp/horikosi/2017-Horikoshi-oven.pdf
上智大学 堀越智 繊細で部分加熱が可能な半導体式発振器搭載電子レンジの特徴と応用

  1. ht tp・:/ / w w w瓜 at.go.jp/data/zensho/20 04/taikyu/gaiyol.htm

  2. 2)経済産業省、小型白物家電に関する新事業戦略研究会報告書、 2013

3) IT& 家 電 ビ ジ ネ ス 2012年 3月 4)堀越智、篠原真毅、滝津博j乱、福島潤、マイクロ波化学一反応, プロセスと工学応用、三共出版
(2013)
5) htps:/en.m.wikipedia.org/wiki/WardenclyfeTower
6)htp:/otonanokagaku.net/products/others/car/history.html(最終検索日: 2017年2月23日)
7) ht tps:/ /www.alternatehistory.com/forum/threads/a-martian-stranded-on-earth-t巴 sla-
edition.259351/page-2
8)倒日本学術振興会電磁場励起反応場第 18委員会、装置計測分科会(霜田光一、齢家清講演)より
(平成 28年 6月 9日)
9) 2015年 1月 18日 第 9回日本電磁波エネルギー応用学会シンポジウム 国際ショートコ ース資料
より
10)S. Horikoshi,SelectiveHeatingofFoodusingaSemiconductorPhaseControlMicrowaveCoking Oven.IMPI49山 Microwavepowersymposium,SanDiego,California,USA.(2015)
1)堀越 智、食品の選択加熱が可能な半導体発振器搭載電子レンジの開発、日本電磁波エネルギ一応 用学会 2015年シンポジウム、(2015)
12)htps:/w.ecj.or.jp/topruner/microwave/microwave.pdf(最終検索日 :2017年 2月 23日)

)福原俊一 JTBパブリッシング 国鉄急行電車物語

https://www.jema-net.or.jp/Japanese/ha/renji/history.html
一般社団法人日本電機工業会  

http://www.kdb.or.jp/syouwashirenji.html
一般社団法人家庭電気文化会

https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je17/h11_data05.html
内閣府長期経済統計 物価

http://microwave.jp/interview5.html
上智大学 堀越智教授インタビュー
https://pweb.cc.sophia.ac.jp/horikosi/2017-Horikoshi-oven.pdf
上智大学 堀越教授 実証実験


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