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獲得と喪失と

初めから歩けなくなった訳ではなかった。
去年の冬は歩けていたのだ。
だからこそだ。

意識が戻って当初はまだ、踵の骨折が治ってなかったからだろう、両下肢免荷の指示が出されていた。

指示が少しずつ緩んでいって、
座ってもいいよ、立ってもいいよ、と言われ。

練習してみたら、立てたし、歩けた。
ゆっくりとだけど、また出来るようになっていっていることを感じられた。

僕が取り戻すスピードよりも、
失われていくスピードの方が早かった。

今年に入って、段々と、出来るようになっていったことが、また少しずつ、出来なくなっていった。

杖がないと歩けなくなった。
歩行器がないと歩けなくなった。
平行棒の中でないと歩けなくなった。
遂に、自力で立ち上がれなくなった。

まだ、座れている。
だけど、気を抜くと身体が前に後ろに倒れ込む。
そのうち、座ってられなくなるんだろうか。

すごいよね。
この世に生まれてきて、
赤ちゃんの頃は何もできないままで。

それが、寝返りが打てるようになって、
ハイハイが出来るようになって、
つかまり立ち、伝い歩き、そして、
自分の力で歩けるようになっていく。

後天的に、歩くことを身につけたはずなのに、
それがさ、
一気に出来なくなったわけじゃない。

出来るようになっていく過程があって。

ずっと早く、喪失していった。

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