触れる

今の病院に転院してきて半年以上経つ。
両足に麻痺があるとは言え、不全麻痺なので全く動かせない訳でもない。動かしやすさも感覚の鈍さ鋭さも、その日によって違う。
そして痙性がかなり強い。特に屈曲する方の痙縮が酷い。痙性は、刺激が引き金になって強く出たりする。だから、さらに日によって足の調子が変わってくる。

リハビリを担当してくれているPTさんOTさんは、そんな僕の足のことをよく分かっているので、どんな動きが刺激になるか、どこを触ると筋の緊張が緩むかを分かって足を動かしたりポジショニングに気をつけてくれたりする。
それに比べると、まぁ専門ではないのだから仕方ないのだけど、看護師は特に何もしない。
自分も看護師だったので、少し分かる部分もあるよ。病棟をまわすには優先順位をつけざるを得ないし、よく触れる分野でない限り大した知識は持ってない。

例えば、処置中、触られた刺激で痙性が入った時に「はい足の力抜いて〜」と言うスタッフたちがいる。自分で抗えないからこんなに曲がってるのに。
例えば、処置が終わった後、痙縮で膝が曲がったままの足を整えるでもなく、そのまま失礼しますと退室される。痙縮で筋が強く収縮してる訳で、痛い。
でも、そんなことの為にわざわざ看護師を呼ぶなんてできないじゃんか。きっと忙しいんだから。こんなの、大したことじゃないんだから。どうにかこうにか自分で伸ばそうと奮闘する。

そんな中、ここの主任さんが好き。
どんな用事であっても、僕のところへ訪室するといつも、来たついでに、と、足のストレッチをしてくれる。
「今日の夜勤です、よろしくお願いします」
の挨拶だけでいいのに、そのまま去っていいのに、僕の足を触ってくれる。
しかも結構な力でぐいーっと引っ張ってくれる。しっかり足を背屈してくれるから、ふくらはぎがすごく伸びる。

それだけじゃない。

足の循環が悪いからいつも弾性ストッキングを履いてるんだが、この主任さんは、弾ストを履かせた後、ふくらはぎ全体をさすってくれる。
弾ストがシワになってないか確認するのもあるんだと思う。それを込みにしても、なのだ。
両手でふくらはぎ全体を包むように、下から上へ、上から下へと、ゆっくりさすってくれる。

足の感覚は、膝から下が特に鈍い。
少し触れただけでは、触られていることに気付かないこともある。正直、足をさすられても、それを感じとれるのはほんの少し。ポツポツと部分的に足にかかる圧を感じるかどうか程度。

それでも、足を触られると、
足を触られるだけで、
すごくすごく足が楽になる。

感覚がほぼないのに、常に脚が重だるい
感覚がほぼないのに、常に踵が鈍く痛い
そんな足に触れてもらうだけで、
触れられてることを知覚できていないのに、
ふくらはぎの重だるさが和らぐ
踵の痛みがどこかへ消える
足の裏が内側から、筋肉がほぐれてキシキシと動いてるのが分かる(実際に見ると、これっぽっちも動いてはいないのだけど)
終わってしばらくも、足がじんわりしている
循環が悪くて常に冷えている足
それが、触られただけで血が通っていく感じ

主任さんが僕の足の状態をどこまで分かってるのかは知らないけど、でも、そんなこと関係なく、僕は主任さんからケアを受けているんだと実感する。
知識とかどうこうの前に、その人に何をしてあげられるか。学生の頃に耳タコで聞いた″患者の安全・安楽″という言葉。その安楽の意味を体感してる気がした。

看護の看という字は、手と目でできている。
手と目でケアするんですよ、と基礎看の教授に教わったのを思い出した。
患者を自分の手で自分の目で看る
原点を忘れちゃいけないなぁ。

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