お散歩

僕は入院中に怪我をして、2月末からずっと病床安静の指示が出ている。初めの2ヶ月ほどは腹臥位以外禁止。6月半ばからリハビリ時のリハ室移動のみ許可がおりて、今でも1人で病室から出ることはできない。
怪我をするまでは院内フリーだったので、病棟を下りて外来スペースや院内のタリーズやローソンをうろついたり、それこそ禁止されている院外外出もしょっちゅうで、外の道に慣れようと毎日散歩し練習していた。外の道はきちんと舗装されてて平坦に見えるようで、実は意外と傾斜がついてたりするんだよ、気付かないだけ。
僕の誕生日に知人が僕を車で連れ出してこっそりカフェに連れてってくれたのは、秘密。

そんな訳で、僕が最後に外に出かけられたのは真冬のこと。気づけば春が訪れ過ぎ去って、梅雨に入り、夏が始まってしまったんだろうか。

今日の午前のPT。
リハが終わっていつものように病棟へ戻ろうとエレベーターホールへ向かう。すると、「暑いかもやけど、少し外に寄り道します?」と。
もちろん全力で頷いた。

久しぶりのお外。
自動ドアが開き、更に前に車椅子を押し出す。
途端に、
湿気を含んだ生暖かい風が全身にまとわりついてきた。蝉たちは耳鳴りを覚えそうなくらいの大合唱で、先生の声がかき消される。更に進んで日陰から日向へ出ると、太陽に照らされて、人工でない自然の、光の眩しさと照りつけ、肌を刺すような熱。
「うわあ」
自然と声が出ていた。
自然と涙が出ていた。
今まで屋内で、エアコンの効いた環境で、快適だけど、快適なだけの空間で。そっか、本当はこんなに五感が刺激されるもんなんだ、世界は。
ほんの数分、なんてことない散歩。
だけど、こんな風に感じられるのは今だから。
不快で五月蝿くて怠くて、素敵だ。

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