菌ちゃん野菜作り日記 その1

 めっちゃ元気になるよ、と母親が、菌ちゃん農法で作ったふりかけ『菌ちゃんげんきっこ』を送ってくれた。朝ごはんがわりに味噌と熱湯で溶いたのを飲んだりしているうちに本当に「めっちゃ元気」になるのを実感し、気づいたら菌ちゃん野菜作りが体験できるキット『リビングファームキット』を購入していた。それが今日到着した。別に首を長くして待っていたわけではないが、届いたら届いたでほくほくした気持ちになった。生ゴミを使って土を醗酵させ高い栄養価の野菜を育てる、それが菌ちゃん農法。
 仕事終わりに開封すると、なんともいえないにおいが部屋に広がってこれ大丈夫なのかしらと思った。なんともいえないと言っても別に腐ったにおいがするわけではない。箱の中身は、土、タネ(スプラウト)、ぼかし、といたってシンプルで、ぼかしというのは写真や画像のアレではなくヌカとか油カスとかを醗酵させたものらしい。においの正体はこれだったわけだ。別売りのマニュアル(三百五十円もする)を読むと他にポリ袋というのが入っているはずなのだが、底浅のダンボール箱にはさぐるまでもなく他に何も入っていない。根がクレーマー体質にできているおれは反射的に菌ちゃん農園の番号にかけてみるも不通。ネットでいろいろ調べるうちにポリ袋というのはどうやら土が入っている袋のことを指すらしい、というのがわかってきた。そんで、キットが入っていたダンボール箱は、プランターがわりになるとのこと。なんかそういうのいいね手頃で。
 それではさっそく農法に取りかかりますか、とマニュアルを読み始めた。まずは生ゴミを準備。生ゴミを準備って、なんかあべこべだよな、と思う。とりあず400〜500グラム必要と書いてあるので、冷蔵庫を漁るとしわがれたような水菜がまず目に入り刻む。このブツをサラダとかにするんなら結構悲惨な気持ちで刻まなければいけないが、肥料のためなのでなんか暗い喜びを覚えながらザクザク。これで50グラムくらい。今日飲んだ紅茶と昨日飲んだ緑茶のでがらしがあったのでそれも使う、これは10グラムくらいといったところか。こんな調子ではいつまでたっても400グラムに間に合いそうにないので、冷蔵庫に首を突っ込むと飲み屋のママがくれた有機たくわんが転がっていたので、それも刻む。たくわんの表面にはヌカがまだいっぱいついていて、細かく刻んでいくとなんか手が土だらけになっていくみたいで(ヌカなのだが)、おれはこれから菌ちゃん農法をやるのだなあ、とうれしくなった。これは200グラムくらいあった。それでもまだ150グラムくらい足りないのでラップしてある玉ねぎの皮を剥ぎ取り、古くなった大根を皮ごと刻んだりなどして、200グラムくらい稼いだ。玉ねぎの皮といってもたかが知れてるので400グラムくらいはほぼ大根ということになる。水っぽくなった大根を土に埋めたところでできるのは大根だけでは?
 次に、土を湿らせてね、とのこと。マニュアルには「土を握って開くと、その瞬間はおにぎりのように固まってみえますが……ちょっと触るとホロホロ崩れる……これがちょうどいい湿り具合……」と書いてある。変態みたいだなと思う。ポリ袋のなかに手をつっこんで握ってみると、なんかそんな感じで崩れた。となりで見ていた彼女が、そんなもんじゃない、と言ってくれ、ここは特にすることがなかった。
 いよいよ本日のメーンイベント、『生ゴミを土に入れます』 生ゴミを土に入れる、ここがまさしく菌ちゃん農法のキモなわけだ。入れるといってもただ土の中にぶちこむわけではなく、まずは刻んだ生ゴミに、ぼかしをまぶす。これで発酵を促進させるという仕組み。それでその生ゴミを土の中にいれ、よーく混ぜる。よーく。土をこねるているとなんかすごい懐かしく、自分の指がカブトムシの幼虫にでもなったような気がした、まあそれはどうでもよくて、混ざったらポリ袋ごと箱に戻し、土をならし、土の表面に新聞紙を敷き(彼女がわざわざ読売新聞を買ってきてくれた)、箱の蓋を閉じて、なるべく暖かいところに置いて三日待つ。発酵するのを待つのだ。ダンボール箱を叩きながら、頑張ってくれよぉ、菌ちゃん、とお願いをし、窓辺に置いた。うまくいくと三日後土の表面が麹カビで白くなるらしい。楽しみだ。
 夜飯はナポリタンを作った。あと空芯菜の味噌汁とカイワレときゅうりのサラダ。ナポリタンのために昼サミットで買った無塩せきソーセージを切っていると、なんか子供のころのお弁当を思い出した。そういえばうちのソーセージはこういう色のないソーセージだった。子供のころは友達の弁当に入ってるシャウエッセンとか赤ソーセージがうらやましかったものだが、今思えば、さすが母親。おれが幼い頃からソーセージにまで気を使ってたなんて。
 


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