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艦隊これくしょん同人誌備忘録 その50

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タイトル:雨上がりはいつもやさしい
サークル:52Hz
作者: 五十嵐
発行日:2019年6月2日

初めて同人誌イベント遠征をした(早朝の飛行機で神戸まで行くのに早朝の空港行きのバスの中でリヴァプール対トッテナム・ホットスパーズ戦を見ながら行った、トッテナムのソン・フンミンが抜け出すところをスピードで追いついたファン・ダイクに車中で唸った)、神戸かわさき造船これくしょんで一番印象に残ったのがこの「雨上がりはいつもやさしい」でした。

本作の主人公はオッサンっぽい言動(しゃべりの中で擬音が多い等)で人気の隼鷹さん。

作戦前の慌ただしい鎮守府で目を掛けていた駆逐艦 陽炎の練度上限達成、ケッコンカッコカリを進めてる話を聞いて昔を、自分が「艦娘になる前の記憶」でボロボロになりながら姉妹の黒潮を庇いながら必死に終わらない戦いの中を生き抜こうとする昔の陽炎の姿を隼鷹は思い出す。

隼鷹は艦隊の中心として立場的に駆逐艦などに対して「大人」として振る舞う、そして艦隊の中で身体も小さい「子供」のような見た目の駆逐艦に命令を下して、時に艦隊の盾になるように駆逐艦達に犠牲を強いる。

そんな駆逐艦達の傍らにはいつも姉妹艦達の姿が居て、陽炎も妹の黒潮を庇うように手を取り合って絶望的な戦いに身を投じている姿を仕方が無いと割り切って考えようとしても、その体中に傷だらけにしながら、姉妹を庇い戦いを生き延びようとする抜き身の姿を見ながら、哀れとも悲しいとも同情せず「大人」として眺めている。

陽炎達の子供達の姿を見て隼鷹は何かできないかと模索するが、犠牲が戦争で仕方が無いことだと大人だから分かっていても、何かできないかと考えて現実の前に諦めるのが大人の「責務」なのだと分かっていても本作の隼鷹は納得しようとします。

そんな過酷な状況でも、風雨で足を止められてしまった艦隊で、隼鷹は陽炎たちに気を遣って一度だけ、艦載機の収容をしてるほんの少しの時間だけ陽炎と黒潮の任務をといて戦場で姉妹だけの時間を作ってあげる、陽炎は一度は拒むが、この二度と無いかも知れないふらりだけの時間を大事にしろと隼鷹に悟らされると陽炎は深々と頭を下げる、それを見て隼鷹の歯がゆい表情がただの偽善と分かっているが、今の自分にしてやれることをしただけだと詫びるように少し笑う姿がとても印象的に描かれています。

その後陽炎と黒潮は作戦中に撃沈されてしまい、隼鷹は他に何かできなかったかと遠い海を見ながら自戒する、自分達大人に何かできなかったのかと・・・彼女たち小さな姉妹になにかを。

そんな昔の思いでがよぎりながら、艦娘となった陽炎は成長し、今は姉妹の黒潮とも一緒に艦娘として生きることに大規模な作戦の中、忙しなく動いている。

そんな陽炎たちの姿を隼鷹が嬉しく思いながらも、時々昔の雨中の事を思い出す。普段の明るく、物事を楽観的に捉える大人びた性格の後ろ側にある大人の苦悩が淡々と作中に埋め込まれています。

そんな隼鷹に対して陽炎が昔も今も目を掛けてくれてありがとうございますと、過去たった一時でも絶望的な状況で姉妹の時間を作ってくれた隼鷹にひとりで礼を言いに来たときに、隼鷹は陽炎の髪を手でくしゃくしゃにしながら、照れ笑う。

「あれは私達大人が、あんた達にやれた、唯一のことなんだから」

作中の隼鷹の台詞には大人としての子供達へ出来た些細な配慮に己の無力さを知りながらも何かしらささやかな時間を作ってやれた事が自分への贖罪だった事、真っ直ぐに礼を言いに来た陽炎に対する申し訳なさとが混じってる。

でも、それが彼女の隼鷹の戦いの中で見いだした大人としての振る舞い方で、それがあるからこそ生きて前に進める。小さな同胞達を見守って行くというそんな「大人の決意」が本書には描かれていて、艦隊の守られる側、艦隊の上の立場の準鷹の葛藤が追憶と共に描かれてるのが印象的で、最後は新しい艦娘としての人生を、大事な姉妹と一緒に笑いながら日々を生きてる姿を見守って行くことができてる、変わらないいつ終わるか分からない戦いの中でも可愛い子供達が立派に成長していく姿を傍で見守って行くことは悪くない世界だと、隼鷹が自分の立場を喜ぶ姿がとても清々しくて、本作は何度も読み返しました。なかなかこういう艦隊の中を「大人と子供」って対比は面白いなあと。


A5サイズの小さな本なのですが、ささやかな希望がとても詰まっていて、大好きな本ですね。

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