寅さんになりたい。その4

中学校三年生になって、僕の状況は好転する。

僕の初恋の相手Yさんと同じクラスになっただけでなく、男友達やクラスメイトにも恵まれて、僕の学生生活で一番楽しい一年を過ごすこととなった。

Yさんとは、結局ただの仲の良いクラスメイトだったけれど、クラスみんな仲が良くて、学校に行くのが楽しかった。

中学校も最終学年であり、みんなそれぞれ、自分の進む道を模索しながら学生生活を送っていたように思う。
かくいう僕は、最初公立高校に行くつもりだったけれど、大学には行かず高卒で働くとなぜか決意して、就職に有利だという理由で私学の商業科を志望した。

中学校生活も終わりに近づく秋頃のことだった。
その日は、授業中みんなそれぞれの願書を書いていた。
僕も願書を書いていたのだが、書き間違いをしてしまい、新たな願書に書き直さなければならなかった。すると、僕の様子に気づいた近くの席のNさんが、私のあげる、と、僕に新たな願書を渡そうとしてくれた。そう、わざわざ、彼女のを僕にくれようとしたのだ。なのに、僕は素っ気なく断り、男友達にもらいに行った。そう、わざわざ、である。

Nさんは、女友達に、もらってくれへんかった、と、泣き言みたいに愚痴っていた。
僕は悪いことしてしまった、と、後悔したが、とても恥ずかしかったし、照れてしまったのだ。
多分Yさんの目を意識してしまったのもあると思うが、女の子からものをもらったら、僕の男友達からどう思われるか分からん、という風にも思っていた。
僕も、思春期の男の子だったのだ。

のちに、Nさんが僕に好意的なものを持っていてくれたことを知るが、この年代の好意なので、特別異性としてではないように思う。
けれど、Yさんとも違う高校に行き、全く出会いのなかった高校生になったばかりの時は、特にその時のことを思い出し、願書もらってればお付き合いしてたかなぁ、もったいない、などと、妄想に耽っていた。

高校生時代、ほぼYさんのことを考えることはなかった。
あの雨上がりの帰り道、彼女と再会するまでは。

#恋愛エッセイ