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これからの国語科の授業とは?③(2018年9月24日)

 先月の4日(土)と5日(日)は、日本国語教育学会主催の「国語教育全国大会」でした。
 残念ながら初日は仕事の都合で午前中のみの参加でしたが、充実した二日間となりました。
 今年で第81回の全国大会ですが、学会の長年の取り組みである「国語単元学習」を軸としながらも、新指導要領を受けて「豊かな言語生活を拓く国語教育の創造―「主体的・対話的で深い学び」を実現する単元学習―」というテーマで実施されました。
 1日目は文教シビックホールにおける一斉形式での授業公開ですが、2日目は小中一貫校・品川学園を会場にしての授業実践研究発表です。「校種別分科会 研究発表と協議」「テーマ別分科会(模擬授業型分科会/ワークショップ/大学部会シンポジウム)」「単元学習実践研究発表」の3プログラムで一日が展開しますので、どの会場に行こうか迷ってしまいます。

 ブログでも何回かにわたって今回の大会の報告をしたいと考えていますが、3回目の今回は、校種別分科会「高校3 読むこと(現代文)」から「実社会のなかで役立つ情報活用能力の育成」(山形県立寒河江工業高等学校/舟越美和子先生)を紹介したいと思います。

 発表者の学校では、限られた時間数の中で「卒業後に実社会で求められる国語力の育成が課題」であるということでした。実際、住宅補助を受ける際に役所の案内に書かれた情報を読み取ることや必要な書類の作成で困難を覚えたという話を卒業生から聞き、「寒河江市が実施している住宅建築に係る補助金制度を利用した授業」を展開してみようと考えたそうです。
 教材(生徒が使用するワークシート)については、「大学入学共通テスト」記述式問題のモデル問題例(景観保護のガイドラインや駐車場の契約書)を参考に作成していました。対象は高校2年生で、国語総合(2単位(1年生で3単位))での実践です。

 ワークシートで展開される会話(文章)を読んで、その中の人物が補助金をどのようにしたら得られるかについて、まず個人で考えさせた後、「スマホ」「寒河江市報」「コミュニティー誌」の3つのメディアのいずれかのみから情報を得るグループにそれぞれ分け、取り組みを開始します。
 次に、他グループのメンバーと新たにグループを組み、情報を交換した(ジグソー法)後、クラスで情報交換をします(クロストーク)。
 教材の中の人物が受け取れる補助金の金額と、具体的にどうすれば補助金を受けられるのかについて全体で確認した後、寒河江市が提示している補助金交付要綱について語句を確認しながら読み、実際の申請書を記入します。
 最後に個人での振り返りを行います。

 スマホだとキーワードを入れてすぐにヒットした情報だけを採用してしまったり、コミュニティー誌や市報でもやはり補助金を受けられる細かな条件について生徒たちが十分に読み取れなかったりして、教材の人物が最大で受け取れる金額を出せなかったグループもあるという結果でした。
 生徒たちからも「スマホだけに頼るのはやめようと思った。」「知らないことは大きな損だと思った。」「メディアにも市報やインターネットなど様々あるが、それぞれに短所や長所があるのだと知った。」といった感想があがりました。発表者自身からも、生徒たちの気づきへの手ごたえとともに、ジグソー法の力を再確認できたという言葉がありました。

 質疑応答で発言された方や指定討論者の先生からの意見は様々でした。
 新指導要領の「現代の国語」内の「読むこと」や「言語文化」についての方向性を示唆する授業であること、地域や学校の特色を生かした実践であること、ジグソー活動やクロストークによる説明の課程に国語科としての取り組みの意味があったこと、必要な資料をしっかり読む必要性を生徒たちが知ったことなどが好意的な意見としてあがりました。
 一方で、他教科(情報科・家庭科など)との連携がまず前提として必要でないかという疑問や、生徒の感想からさらに生徒たちに考えさせる必要性、教材をファイルさせることや教師自身の振り返りといった指摘もありました。

 寒河江市が実施している住宅建築に係る補助金制度を利用した授業――実践発表終了後には賛否が分かれた感があったのは事実です。
 では私はどうかと言えば、おおいに評価をしたい授業でした。なぜならば、舟越先生は卒業生の会話の中からヒントを得て、毎日の学校生活をともにしている生徒たちの実際に添った単元づくりをされたからです。何も先生は、このような《実用的な国語》の授業ばかりをされているのではないであろうことはちょっと考えればわかることであり、生徒たちも「国語」の様々な側面について、先生の授業を通じて実感するにちがいないと思うのです。先生が実践を発表されている間、生徒たちがわいわいと、そうでありながら自分のこととして、教材に取り組んでいる姿が目に浮かんだのは私だけではなかったと思います。


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