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自分で学ぶ姿勢・自分で考える姿勢(2013年2月22日)

 今回は、教員側の古文の苦手意識の克服について、私なりの考えを示したいと思います。

 私は、大学では日本文学の中でも古典文法を専攻しています。生徒もそうですが、古文が苦手=古典文法が苦手というケースは多いと思います。ゆえに、大学の専攻が古典文法というだけで私は有利であり、もうこんな記事は読む意味ないやと思った方、ちょっと待って下さい! それは大いなる誤解です。

 実は、私も本当に自信を持って古文を教えられるようになったのはここ数年のことです。大学を卒業してからは二十年近くが経っています。どうして自信がついたのか。――答えは簡単です。量を読んだからです。だだし、自分の好きな作品をくり返し、くり返し、辞書を引いて、丁寧に現代語訳を施しながら読んだだけです(その作品は、文学というよりは史学寄りの文献で、国語国文学の先生方による現代語訳は存在しません。かろうじて、史学(宗教学)の先生の現代語訳が一冊あるのみです)。

 なぜそんなに私は頑張れたのか。――言い訳する自分が嫌だったからです。
 数年くらい前から、大学受験とは無縁だった勤務校でも、受験を志して地道に学習する生徒が増えてきました。私は古典文法専攻でありながら、勤務校でのカリキュラムにおける古典の扱いが薄く、古典をほとんど教えない日々が続いていました。受験をする子も少ない分、生活指導などの方が忙しく、帰宅すればくたくたで、「忙しいから勉強している暇がない」というのが口癖になっていました。しかし、受験向きではないカリキュラムの中でも受験勉強に取り組む生徒相手に、「忙しいから勉強している暇がない」というのは大変失礼な話だと思いました。
 そこで、私なりに静かなる挑戦を始めたのです。毎日帰宅後、必ず決めた分量の本文について現代語訳をしていく…と。大体、日々2~3時間は学習に要しました。同じような文法事項や語句を何度も何度も文法書や辞書で確認している自分の勉強不足にあきれながら、それでも継続しました(その作品は、本文だけで文庫本にして1センチくらいの厚さのものです)。

 大学で専攻したくらいではプロとしてはだめだということを痛感しました。
 しかし、この挑戦のおかげで、私は語彙・文法のみにとどまらない古典の世界の扉を開くことができました。――挑戦の成果をもとに、大学時代にやり残したことをしようと、勤務のかたわら大学院に進み、思想的な内容の論文を書き上げることまでできたのです(なんといっても研究している人が少ない作品でもあるので、困難もある分、発見も多くあったのです)。

 古典は受験でしか接していないせいか、大学受験用の参考書ばかりを購入する、古典専攻ではない国語の先生方も少なくありません(実は、英語もそういう方が多く、進学校でなければないほど、生徒の古典嫌いや英語嫌いを助長するのではとひやひやしています)。
 しかし、おそらく人は、自分で納得しえたものしか確信を持つことはできないのではないでしょうか。ましてや、人に教えるなんて、他人の借り物の知識やテクニックで可能なことなのでしょうか。少なくとも、不器用で頑固者の私には無理でした。

 急がば回れ、です。
 
 私が先生方に、最初に手にして最後まで手放さないでほしいのは、良い辞書と文法書であると声を大にして伝えたいのです。それらを使って、真摯に作品と格闘し、納得できる発見をして、それを子どもたちに伝えてほしいのです。
 教えなければいけないことが多いのはわかります。だからこそ、何を先にして、何を後にすればいいのかということを、先生方ご自身で納得されることが肝心なのだと思います。

 私の場合、辞書は三省堂『全訳読解古語辞典』(現在第四版/外山映次編集代表・小池清治編集幹事)と、多くの電子辞書に採用されている旺文社の『全訳古語辞典』(こちらも現在第四版/宮腰賢ほか編)を併用しています。一つの語が持つ様々な用法の使い分けについて、その根拠となる用例が豊富で、かつ、わかりやすく示してあります。読解を手助けする知識などの欄も大変勉強になります。これらで載っていない語については、小学館の『日本国語大辞典』を使用しています(これは本編13巻、別巻1巻の大変高価な辞書です。たぶん職場の図書館にあります。なければご自宅の近くの図書館・大学の図書館で手に取ってみて下さい。また、現在ではネットアドバンスが運営する総合オンライン辞書・辞典サイトJapanKnowledgeのコンテンツの一つとなってもいるそうです)。

 2022年4月現在、両者ともに第5版で、安定して古典学習の定番のようです。


 文法書については、苦手意識の強い方こそ生徒さんがお使いのもので学習するのがいいと思います。最近になって東京書籍から発刊された『古文を学ぶ全ての高校生のために 新精選 古典文法』(小林國雄編集代表)は、かゆいところまで手の届く解説と図表類で、とても学びやすいと思います(わかりやすい一方で内容は濃く、先生方の学習にも耐える内容です)。さらに、私は折に触れて中村幸弘『先生のための古典文法Q&A100』(右文書院)と大野晋『古典文法質問箱』(角川ソフィア文庫)を開いて、文法における根本的な内容の確認を行っています。


 私の教えたある生徒ですが、高校二年生の段階であったものの、興味を持った『方丈記』の本文の助動詞や重要単語・文法事項を確認しながらの現代語訳ノートを作成したことにより自信をつけました(もちろん、提出したものを私が添削して返却するということのくり返しでしたが)。その後、様々なジャンルの古文の問題にチャレンジしましたが、基礎が〝マイ『方丈記』ノート〟でできていたため、飛躍的な読解力アップを遂げました。

 どんな作品でもかまいません。何か一つの作品を辞書と文法書のみで(すでにある現代語訳に頼らずに)読み通し、自ら学ぶという初心に返ってみて下さい。疑問に思ったところはとことんまで自分で調べて、考え抜くことが大事です。生徒への説得力はその気づきがなければかないません。そしてその先に隠された古典の扉を開きたいとは思いませんか。――子どもたちも、その扉の先にある世界のことを知りたいのだと、今ならば確信を持って言えます。

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