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2013年 夏の学会・研究会のまとめ③〔廃刊メルマガ記事より〕(2013年11月18日)

 前々回より、夏の学会・研究会のまとめをしています。第3回は、〈国語教育学会全国大会〉の第三弾です。

 大会二日目の午後の「テーマ別分科会」では、卯月啓子先生のワークショップ「読み読み教室」に参加しました。

 毎年、多彩なラインアップのワークショップは、どれに参加しようか悩んでしまいます。今年は、ユニークなタイトルに魅かれ、卯月啓子先生の「読み読み教室」を選択しました。

 それなりに早い時間に移動したにもかかわらず、開催教室はすでに人でいっぱいでした。それもそのはず、卯月先生は、千葉県の国語教育界ではカリスマ的な有名人で、TVに出演されたり、数多くのご著書を出されたりしている方でした。

 先生のお話は大変おもしろく、教室には笑いが絶えませんでした。

 作品は、1回の授業で読み切ります。先生が音読している部分を指でたどっていくように参加者(子どもたち)たちには指示します。そして、途中何ヶ所か(今回は、中途と最後での2回でした)で質問を出します。

 「読み読み教室」の肝は、作品の核となる質問をいくつか考え、参加者全員にその答えを求める点にありました。そして、その質問には答えはなく、先生は発言者の意見を受け入れ、一つ一つ板書されていきました。

 “毒のある作品”を選ばないと、参加者全員がそれぞれに考え、それぞれに違う意見の飛び交う質問は作れないそうです。このワークショップでは、杉本苑子著『今昔物語集』「手くせの悪い末息子」を扱いました。あらすじは次の通りです。

 食べてはいけないと止められていた瓜を食べてしまったにもかかわらず、しらを切り、ばれたら開き直った末息子を、周囲の人間が止めるのもきかず、父親は勘当する。何年かの後、その末息子が犯罪に関わり、役人が家にやって来るが、とうの昔に勘当しているという事実を父親が示し、家はお咎めなしになった。よって、この父親は賢人である。

 ――卯月先生は、末息子が開き直ったところで物語をストップし、この子がどんな子であるかという質問、最後まで読み終わった後に、この父が賢人かという質問を発せられ、参加者からは様々な意見が出されました。

 「読み読み教室」では、参加者の一つ一つの意見について全員が考えるという、濃密な空間が作り出されました(なお、先生の「手くせの悪い末息子」の教室に何回も参加しているのだけれども、毎回違う意見が出て、教室の様子も違うのだということを参加者の一人が述べていました)。

 また、この実践を通じて、“毒のある作品”というのには、とても納得しました。高校の教材であれば、まさに「羅生門」「山月記」「こころ」「舞姫」といった不動の作品群ならできると思いました。

 その他、小学校で用いる「翻作」の手法(作品を違う視点から見て作品全体を書き直したり、演じることなどによって文字以外で表現する方法)は、自分が子どもの時には経験していながら忘れていたものであり、発想と工夫次第でいくらでも応用できることを痛感しました。

 卯月先生のご著書で、指導上参考になるものがいくつもありました。次回はそちらを紹介したいと考えています。

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