見出し画像

国語史から文学史(廃刊メルマガ記事+2013年4月28日)

 「熱血!古典教育・国語教育」について、かつてはブログと並行してメルマガも発刊していました。メルマガは廃刊にしてしまいましたが、そのデータはUSBに残っていました。今後は、そのメルマガとブログとで連携させた記事、メルマガのみに掲載した記事も拾っていきたいと思います。


 前回とりあげた、「五十音図」の話はいかかでしたか。「五十音図」に限らず、大学で学んだ専門的な知識・内容を、子どもたちに教えるのには骨が折れます。知識・内容の論理性を自分なりに解釈し、子どもたちの理解を妨げる情報を思い切って省略し、それでも外せない情報は何かを抽出して、説明を組み立てていくのにさんざん悩みます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 さて、今回は「国語史から文学史」という題でお話をしたいと思います。

 先に本ブログの方で、漢字を受容した日本語の音と訓についての話をしました。


 今日、読者の皆さんに紹介したいのは、文学史の展開を国語史によって考えるきっかけとなる好著です。

山口仲美『日本語の歴史』(岩波新書/2006年5月)


 山口先生は擬声語・擬態語(オノマトペ)で数多くの研究をされている方なのですが、とてもチャーミングで、かつてNHKの『爆問学問(爆笑問題のニッポンの教養)』にも出演されたことがあります。

『爆問学問(爆笑問題のニッポンの教養)』FILE054:「日本語って“ヤバい”」(NHK) 
 ※残念ながら、情報のあったページは削除されてしまったようです。


 この本を読んだ時から、たとえ文学史であっても、ただ覚えるだけの授業から脱して、ある種の論理性をもって説明できるのではないかという思いを抱いてきました。
 漢字を受容した際に生じた音と訓の問題からスタートし、時代を経て変化する表記や文体が、その時代背景とどう結びつくかを考えていくのです。

 板書の参考になるかわかりませんが、山口先生の著書から、私が(本当に以下はかなりおおざっぱにですが…)理解したことは次のようなものです。

--------------------------------------------------------------------------------------

奈良時代以前 =音読みと訓読み
 文字のなかった日本語に中国から漢字が入ってきて、日本語として取り入れるための工夫をした

[貴族の時代]
奈良時代 =万葉仮名
 日本語の語句・文に漢字の音・訓を当て字した(一定のルールが生じる)

平安時代 =平仮名
 女性の活躍により平仮名が発明され、より洗練された表現ができるようになった

[武士の時代]
鎌倉時代 =和漢混交文
 平仮名を用いた文体(=和文)の中に男らしい硬派な漢字の熟語をふんだんに取り入れた文が流行した

[庶民の時代]
 江戸時代 =江戸・京都・大阪を中心に豊かな文化(娯楽)が起こり、様々な作品と文体が生まれた

--------------------------------------------------------------------------------------

 それぞれの時代で、代表的な作品を具体例としてあげていくといいと思います。

 なお、平仮名の発明のところでは、男性が公式の場では漢字(漢文)を用いていたことを確認し、女性がなぜ平仮名を発明したかを問います。すると「漢字はいかついから」「漢字はかわいくないから」など答えが出てきます。女性が素敵な恋の歌や物語を書くのに、漢字だと彼女たちのフィーリングには合わなかったのであろうといった話をしています。
 和漢混交文のところでは、暗唱できる者も多い『平家物語』の冒頭を読み上げさせて、やはり暗唱できる率の高い『枕草子』の「春はあけぼの」を読み上げさせ、両者が全く異なるイメージを与えるだろうことを問います。
 江戸時代では、俳句や旅行記、歌舞伎や浄瑠璃、当時の漫画とも言われる黄表紙、様々な題材のいわばオムニバス小説や長編の小説、カルタなどなどを想像させます。

 山口先生の本はたくさんの示唆に富んでいます。ぜひ一読されて、これまでにない視点での文学史の授業を試みて下さい。

【補足】上記において、江戸時代については山口先生が位相について詳しく説明されているにもかかわらず、子どもたちに示すにはこのくらい単純化しないと厳しいと考え、山口先生の著書の内容に直接するような形では提示しておりません。さらに、明治時代以後については省略しています。
 ※位相…地域・職業・男女・年齢・階級、または書き言葉と話し言葉などの相違から起こる言葉の違い。この違いが現れた語を位相語という(広辞苑)。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?