見出し画像

自分を見失いかけているあなたへ贈るコンテンツ処方

今回のコンテンツ処方(※)では「自分のアイデンティティを見失いかけている方」におすすめのマンガを紹介します。タイトルは『不滅のあなたへ』です。

■コンテンツ処方とは?
当院で実施している、相談に来てくれた人のしんどさを軽減するのに役に立つかもしれないと思った本や作品を紹介する仕組みのこと。
 
※「処方」というと堅い響きがありますが、薬のように医学的根拠があるものではありません。
※この記事で紹介するストーリーについては、本人の許可を得たうえで掲載しています。

▼詳しくはこちら。
https://note.com/saveclinic/n/n58c59a653b83

1.今回のコンテンツ処方:『不滅のあなたへ』

はじめまして。スタッフのネコ井です。今回のコンテンツ処方を担当します。

今回の記事では、『不滅のあなたへ』のストーリーとその魅力を紹介するとともに、人生に挫折し、自分の存在意義が揺らいだとき、この物語からどんなメッセージを見出すことができるのかを考えていきたいと思います。


画像1

2.自己とは何かをめぐる哲学的ファンタジー

『不滅のあなたへ』は、『聲の形』を手掛けた大今良時さんが描くファンタジー。
 
物語は謎の球体“それ“が何者かによって、この世界に投げ入れられるところから始まります。“それ“は「あらゆるものへと姿を変える力」と「不死の力」を宿した不思議な存在。

時の流れとともに石やコケ、オオカミの姿を獲得した”それ”。やがて1人の少年と出会い、人間へと姿を変えていきます。

初めは感情や理性もなかった“それ“でしたが、他者との出会いを通じて、少しずつ人間性が芽生えてゆきます。

しかし自我の芽生えとともに、他者との関係性や自らの存在意義に苦悩していくようになります。
果たしてこの旅路はどこに向かっていくのかー

他者との関係に葛藤を抱えながら、自己を模索する過程を丁寧に描き出す本作。自己のアイデンティティとは何かを考え直す一助となるかもしれません。

画像2

3.「不滅のあなたへ」と私の出会い

ここで、私と『不滅のあなたへ』との出会いについて紹介します。
私がこの作品と出会ったのは、適応障害で休職していた時のことです。
当時の私は完全な自己喪失状態でした。
「自分には生きる価値がないんじゃないか」、「自分は他人から必要とされていないんじゃないか」という不安に苛まれていました。

そんなとき、書店でタイトルに惹かれて手に取ったのが「不滅のあなたへ」でした。巻数を重ねるごとに物語の深みが増し、その世界観にすっと引き込まれていったことを覚えています。

なぜここまで引き込まれるのか。

それは人の奥底に横たわっている泥臭い人間性が丁寧に描かれているからだと思います。

画像3

4.「不滅のあなたへ」は小さな希望で溢れている。

作中では私たちの誰もが抱える悩みや葛藤が、様々な形で散りばめられています。登場人物1人1人が自分の未熟さや不運な境遇に苦悩しながら、
必死に生き抜こうとしています。

しかしながら、彼ら・彼女らが必ずしも自身が望むような生を全うできるわけではありません。ときにその不条理さに胸を締め付けられるような思いになることもあります。
 
ですが、1つ1つのエピソードに希望あるメッセージも散りばめられているように思います。この章では特に私が素敵だと感じたものを3つ紹介したいと思います。

画像4

5.3つの優しいメッセージ

①迷うことを肯定する
自己を喪失したとき、“迷っても良いんだよ“と迷いを肯定されていることが魅力の1つです。すぐに何者かにならずに揺らいでいていいのだという温かなメッセージがそこにはあります。
 
私は適応障害に陥って、自分のアイデンティティの喪失を経験しました。
仕事をすることもできない。好きなものも無くなっていく。
自分とは一体、なんなのだろうかわからなくなる。
初めは焦る毎日でした。

ですが、先生は「1年くらいかけて、ゆっくり探せばいいんじゃないかねえ」なんて言ってくれました。

私はこの1年をかけて多くの人に助けてもらいながら、自己探求の日々を送りました。自分の進路に迷い、人間関係に迷い、他にも迷うばかりの毎日でしたが、今はゆるっとふわっと生きることができています。
 
本作でも主人公がどう生きるべきかに迷う場面が多々、描かれていきます。
ですが、その迷いの中にその人ならでは得難い経験があり、迷う自分もまた愛おしい存在なのだと教えられたような気がします。

②「出来ない」ことを甘受する
人は歳を重ねるほどに、「出来ない」ということに苦しさを覚えていくものです。
自分はなぜこうも出来ないのかと感じた経験を持つ人は少なくないのではないでしょうか。
「不滅のあなたへ」では「何かが出来ない」ということが随所で描かれていきます。
ですが、その「出来ない」には“出来ないことは悪いことではない。出来ないことの裏側にはその人ならではの生き延び方が必ずあるはずだ。“という優しいエールが込められているように思います。

③喪失はただ失うことだけじゃない
喪失とは心に大きな傷を刻みつけるものです。
本作において喪失が大きなテーマの1つとして描かれています。
できれば、喪失という体験を避けたい。
しかしながら、喪失体験から人間は逃れられない。
では喪失とどう向き合うべきなのか。
重く苦しい問いです。
 
本作は喪失への1つの希望的な見方を提示しているように思います。
それは喪失によって、未知の自分へと変化する可能性が開かれているということです。

私で言えば、適応障害で社会での居場所を無くしたという体験でしょうか。
居場所の喪失体験は確かに大きな苦痛でした。
ですがクリニックに通い、先生やカウンセラーさん、患者仲間との関わり合いを通して、少しずつ自分が変化していきました。
他者によってこれまでの自分とは違う自分へと編み直されていく感覚を得たのです。
これは喪失という体験なくしては、得られなかったことだと思います。
 
本作の中でも人々は喪失に傷つき、苦しみ、もがいています。
しかし、それぞれが自分なりの生をなんとか形作っていく。
そうした1つ1つの物語が「喪失」という体験を考え直すきっかけとなるかもしれません。

■まとめ:「不滅のあなたへ」に込められているメッセージ
①迷うことを肯定する
②「出来ない」ことを甘受する
③喪失はただ失うことだけじゃない

画像5

6.物語とともに自分を紡ぎ直す

今回のコンテンツ処方では『不滅のあなたへ』をご紹介しました。
ストーリーを通じて、ゆったりと自分のアイデンティティを編み直すきっかけになれば幸いです。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

画像6

#秋葉原内科saveクリニック #コンテンツ処方 #不滅のあなたへ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?