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【サウナ研究メモ】「女湯のサウナがぬるい」は本当か?

女湯のサウナぬるい問題

サウナにおいても男女格差があるという言説がある。
いくつかの格差が指摘されているがその中に「男湯のサウナ室に比べて、女湯のサウナ室がぬるい」という説がある[1], [2], [3]。
また類似の説に「男湯の水風呂に比べて、女湯の水風呂はぬるい」という説もある。

サウナーに最も人気がある[4]サウナ施設である「サウナしきじ」では男湯のサウナ室は 110 ℃、水風呂は 17 ℃であるのに対して、女湯のサウナ室は 98 ℃、水風呂は 17 ℃と、水風呂の温度こそ同じであるものの、サウナ室では 12 ℃の差があり、この結果だけを見ると上記の説は正しいように思える。

また斉藤による先行研究[5]では、27施設に対して調査を行い、「男性側と女性側には平均 11℃の差がある」ことと「最大値で比較すると、男女の差は平均 13℃である」といった報告を行っている。
しかしこの研究ではサンプル数が少なく、統計的に有意な差があるのか疑わしい。

本研究では、日本に存在するサウナを調査し、男湯と女湯のサウナ室と水風呂の温度の違いを統計的に評価する。

調査方法

日本に存在するサウナ情報の情報源として、サウナ情報投稿サイトであるサウナイキタイ[6] を用いることとした。
このサイトでは日々サウナーがサウナ施設の情報やサ活結果を共有しており、2021年6月20日現在で 9,637 軒のサウナ施設情報が投稿されている。
このサイトをウェブスクレイピングを行うことで、必要なサウナ施設情報を収集した。

収集した主な情報は以下である。

・施設名
・浴場の種類(男湯/女湯/男女共用)
・サウナ室の種類(スチームサウナ/ドライサウナ/ミストサウナ/塩サウナ/韓国式サウナ/薬草サウナ)
・サウナ室の温度
・水風呂の温度

一つの施設に複数のサウナ室や水風呂が存在する場合があるが、それらについても全て収集した。

調査結果

収集した情報の件数は以下のとおりである。

・施設数:9,637
・男湯の浴場数:8,752
・女湯の浴場数:5,342
・共用の浴場数:1,208
・男湯のサウナ室数:8,349
・女湯のサウナ室数:5,109
・共用のサウナ室数:   834
・男湯の水風呂数:6,259
・女湯の水風呂数:3,675
・共用の水風呂数:   483

浴場数、サウナ室数、水風呂数のいずれにおいても、男湯よりも女湯のほうが少ない。

男湯と女湯のサウナ室の温度についての調査結果を以下に示す。

サウナイキタイ_サウナ一覧_-_Google_スプレッドシート

サウナ室においては、平均値で男の湯のほうが女湯よりも 2 ℃、中央値では 4℃低い。
水風呂では平均値では女湯のほうが男湯よりも 0.1℃低く、中央値では同じ値であった。

これらの平均値の差が統計的に有意なのかを有意水準 5% で t 検定を行った。
その結果、サウナ室では p = 0.00000076、水風呂では p = 0.037 であり、いずれも帰無仮説は棄却され、男湯と女湯の平均温度の差には統計的な有意差が認められた。

このことから、一般的に言われている「男湯のサウナ室に比べて、女湯のサウナ室がぬるい」という説については、「男湯のサウナ室に比べて、女湯のサウナ室は平均 2 ℃低い」と言える。

一方で今回の調査では平均値では女湯の水風呂のほうが男湯よりも平均 0.1℃低く、その差には有意差が認められたことから、「男湯の水風呂に比べて、女湯の水風呂はぬるい」とは言えない。
むしろ、0.1℃ながら「女湯のほうが冷たい」と言える。

考察

今回の調査では女湯のサウナ室のほうが温度は低かったものの、その差は平均 2℃と、顕著な差があるとはいい難い大きさであった。

しかしこの差に関しては、調査方法や分析方法に依存したものである可能性があり、調査方法や分析方法を変えることで結果が大きく変わる可能性がある。
今回は、抽出されたサウナ室と水風呂の全てを対象とした分析を行ったが、サウナ室の種類や対象の施設の選定方法によっては傾向や結果が大きく異る可能性がある。

例えば、一般的にはミストサウナなどに比べるとドライサウナの方が温度が高くなりがちなため、女性浴場ではミストサウナなどの割合が男性浴場よりも大きいといった原因から平均温度の差につながっている可能性がある。
ドライサウナだけで比較した場合について大きな差があるのかを明らかにする必要がある。

他にも、有名なサウナ施設に関しては平均温度の差がより顕著な場合、その差がより印象的な結果として言説に挙がっている可能性もある。有名なサウナ施設に限定した場合などについても今回と同じような結果となるのか調査する必要がある。

まとめ

本研究では、サウナ室における男女の温度差について、先行研究[5]よりもサンプル数を 400 倍以上に増やし、統計的な分析を行うことで「男湯のサウナ室に比べて、女湯のサウナ室は平均 2 ℃低い」という結論を導いた。
また、水風呂に関しては、女湯と男湯では温度の差に顕著な差がないことを示した。
また、その施設数や浴場数については男女間で大きな格差があることを示した。

女性サウナーの増加に伴って、男女のサウナ施設の格差は大きな問題である。
今後もどのような男女格差があるのかを調査していきたいと考えている。
本研究がサウナ文化における男女格差の是正の一助となれば幸いである。

参考文献

[1] 浴室・サウナの男女差 | Saunology
[2] 男性専用サウナばっかでずるいからサウナ女子座談会やってみた
[3] アソビュー!女子サウナ部がオススメ!行ってよかったサウナTOP5
[4] 信頼性・透明性のある調査手法による人気のサウナ施設ランキング
[5] 斉藤 みか: サウナの男女差 その1―サウナ室・水風呂の数と表示温度の違い―(2018)
[6] サウナイキタイ

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