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酔いどれ雑記 195 トラ

この間メンタルクリニックに行ったら、待合室でストロング缶(500m)を堂々と飲んでいる人がいました。あのクリニックではそんな人を初めて見ましたね。受付の人に「こんなところで飲んじゃダメですよ!」と優しく言われてましたけど気にせず飲んでいました。目はうつろで足元はフラフラ。

で、先生はわたくしの飲酒のこと、カウンセリングにも行っていることを知っているわけですが、止めろとは言わないんですよね。「飲み過ぎなきゃいいんじゃない?」って感じで。かく言う先生も毎日ビールを6缶も飲むそうで(汗)。なんでも「疲れが取れる」と。いいのかねぇ、と思って聞いていますが、この間は謎アドバイスを頂戴しました。「赤ワインしか飲まないの?白にしときなよ」と。身体的な影響は白も赤も変わらなくね?って思うのですが。あえて言うなら赤ワインは歯を着色するからクリーニングが面倒なことくらいでしょうか。先生に断酒会に行くことも検討していると言ったら「僕は勧めないなぁ、以前断酒会に医師として参加したけど、みんなどうやって隠れて酒を飲むか、酒の代わりになるものはないか?ってことを考えたりしてたもん。断酒薬?うちの患者さんで断酒のための病院通ってる人いるけど、あれはすごく効くらしいよ。それ飲むとお酒がまずくてたまらないんだってさ」と。ここでわたくしは意地悪(?)な質問をしました。
「先生はその断酒薬を飲もうと思ったことはないのですか?」って。先生はきっぱり「ない。だってさ~、自分の頭を乗っ取られるような気がして」と言ってましたね(汗)。ここでまた更に意地悪に
「酒に頭を乗っ取られるのがわたくしは怖いのですけど?酒を飲んで酩酊するのは乗っ取られてるうちに入らんのですか」と訊いたら「入らない」と言われてしまいました(笑)。いや、笑うところじゃないんですけれども、このくらいゆるい先生の方がわたくしには合ってるのかも知れませんね。いわゆる5分診療のクリニックではありますが。

「今日一日だけは飲まない」というのを毎日繰り返すのが理想とカウンセラーはおっしゃっていました。ダルクや断酒会での誓いと同じですね。でも「止めなさい」とははっきりは言いません。かえって逆効果だからでしょうか。

前にも書きましたが、わたくしは『山月記』の虎みたいにはなりたくないんです。無自覚で狂暴化したり、攻撃性が増したりするのが怖いのです。酒を飲んで人に加害する人を見てきましたし、それが原因でひとりぼっちになるのが恐ろしくて。まぁ今はひとりぼっちみたいなもので、酒が友達みたいになってしまっているという。いかんです。

俗に酒飲みのことをトラと言いますね。久しぶりに『愛と誠』を読みたくなってきました。主人公の誠の母親はあるきっかけで大酒飲みになり「大トラおかみ」と呼ばれているーー苗字が「太賀」→タイガーと掛けていてなかなか洒落て(?)いるのですが。わたくしはあの漫画に出会ったのは中学生の頃。当然リアルタイムではありません。わたくしは生まれていませんから。いつも行くスーパーに名前を書けば自由に貸りてokという小さな文庫があったんです。そこに『愛と誠』が置かれていて、どんな小説でも漫画でもなんでも読んだ当時のわたくしはそこにある本をすべて読んでしまいました。そしたらものすごい濃い内容で衝撃を受けましたね......。ちなみに何故かフロイトの本も置いてあって、それも借りたわけですがちょっとエロティックな内容にドキドキしながら読んだものです。しかし誠は本当にカッコいいな、二次元に懸想するとしたらあんな人がいいです、って言いたいところですが、良くも悪くも一緒にいると危なっかしくて見ていられないかも知れません、って二次元だからいいんですよね~。

『人間失格』に葉蔵と堀木が「コメトラ(コメ→コメディ、喜劇名詞 
トラ→トラジディ、悲劇名詞。単語を出しっこして喜劇か悲劇か決める遊び)」をするシーンがありますが、わたくしからすると酒は悲劇名詞ですが赤ワインは喜劇名詞な気がします。ねぇ、メンタルクリニックの先生、きっとそうですよね?