謀略の狭間に恋の花咲くこともある #13

(第七話)『秋の空』前編



「美里、ちょっと遠回りだけど公園の中を通って帰ろうか」
 久しぶりに渋谷までふたりで買い物に出かけた帰り道。電車を降りてアパートまでは五分だけど、公園の中を歩くとゆうに三十分はかかる。
 夏の暑さもようやくピークを越えたと思ったら、心なしか夕暮れが早くなってきた気もする。もう十月の中旬だから無理もないか。
 お姉ちゃんが遠回りの道を選ぶとは意外だったけど、その分こころが軽くなっているのかなと安心したので即座に頷いた。

 大きな池の前でお姉ちゃんが話を切り出した。
「結城さんって面白い人ね」
「そうだね。相手の喜ぶ話題をタイミング良く振ってくれるよね。結城さんがいるとコンパのときにも話題に事欠かないでしょうね」
「変な関西弁もひとをひきつけるのかしら」
「有田さんからの情報だと、ふたりは大学で心理操作研究してたらしいよ」
「だからか……。ひとの心を読むだけじゃなくて話題そのものを操作されてるのかしら。ちょっと怖いかも」
「お姉ちゃんだってひとの反応を考えすぎてて怖いことあるよ」
「美里が遠慮なさ過ぎるのよ」
 両親の代わりを務めるお姉ちゃんはすぐに説教し出す。

「有田さんって頼りがいありそうよね」
 私が話題を変えてみる。
「そうね、さすがに人事課長をしてるだけあって人望が厚いわよね」
「結城さんや峰村さんも有田さんをすごく信頼してるのが伝わってくるもんね」
「私も有田課長なら信頼できると思うな。なんでも本心から言ってるってわかるもの」
「そうね。有田さんに相談するのって不安感が微塵もないよね」
「美里だって信頼したからあんなお節介を相談したんでしょ」
「お節介ってことはないじゃない。お姉ちゃんのためにしたことなんだから感謝してほしいな」
「そうね。おかげで秋空みたいに心が晴れたのはたしかね」
 そういうと、お姉ちゃんは天を見上げて大きく息を吸った。

「峰村さんとはうまくいってるの?」
 私の突然の切り出しに慌てて振り向いたお姉ちゃんの顔が赤いのは、まだ夕焼けのせいではないと思う。
「うまくいってるって……。あれから何度かお茶したくらいよ」
「へえ。それってデートじゃないの?」
「ち、違うわよ。きちんと退社の顛末をお詫びしただけよ。場所はパン屋さんのイートインコーナーだし」
「ゆふの霧?」
「そう。美里も行ったことある?」
「もちろん。私も大好きだから、何回か買って帰ったことあるでしょ」
「あそこのパンだったのね。ごめんね気づかなかったわ」
「はいはい。そりゃ好きな男性と一緒に食べるのとは違うでしょうね」
「そんなんじゃないって……。あ、あそこの水もBoomと同じ水を使ってるんだって知ってた?」
「それも当然知ってるわよ。店長どうしが仲いいみたいよ」
「そうなんだ……。私もあの水が欲しいな」
「バイトに行けばいつでも飲めるじゃない。それにゆふの霧でデートすれば……」
「もう美里ったら、ひとが真面目な話をしてるのに茶化すのはやめなさい」
「はいはい」
「『はい』は一回でいいのよ。それにね、世界中にはいつでも安全な水を飲めるとは限らないひとがたくさんいるのよ」

 お姉ちゃんの真面目モードにスイッチが入ってしまった。


      (後編に続く)




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