謀略の狭間に恋の花咲くこともある #14

(第七話)『秋の空』後編



「美里はこの世界で安全な水を飲めないひとがどれくらいいるか知ってる?」
「安全な水って?」
「安全に管理された健康的な水のことよ」
「いまどき川の水を飲んでるって聞かないから、ほとんどいないんじゃないの?」
「とんでもない。世界中にはまだ二十二億人以上のひとが安全に管理された水を飲めないのよ。さらにそのうちの一億人以上の人は、いまだに未処理の地表水を日常的に飲んでいるのよ」
「地表水といっても綺麗な水なんでしょ?」
「そういった地域ではトイレも外なのよ……」
「そうなんだ……。もしかして峰村さんともこんな話をしてるの?」
「そうよ。峰村さんからもいろんな話を聞いたわ」
「どんな?」
「もう公になっていることだけど、今度、東洋電機がインドネシアに巨大プラントを作るらしいの。その関係で広報紙に載せるためにいろいろ調べたんだって」
「水に興味のある峰村さんらしいね」
「そうね。インドネシアでの水道普及率は公には31%と発表されているけど、そのほとんどが都市部だけに整備されているので、山間部ではほとんど水道施設がないらしいの」
「水道がなかったらどうやって生活してるの?」
「湧き水や井戸水なんだけど、さっきも言ったようにトイレも外だからとっても不衛生なのよ」
「どれくらい?」
「年に何人もの子どもやお年寄りが水を原因として亡くなっているらしいわ」
「そんなに?」
「それだけじゃなくって、水不足による不衛生から病気になって学校に通えなくなる子も多くて、だから教育レベルが低いままで生活を向上させる能力が育たないという悪循環になってるんだって」

「峰村さんはインドネシアに行ったことあるの?」
「一度だけ視察に行ったらしいわ」
「私も行ってみたいな」
「もし行くんなら、スマトラ島を薦められたわ」
「……?」
「スマトラ島にあるクリンチ山の中腹にとっても綺麗な花が群生してるんだって」
「有名な花?」
「ううん。有名でもないしガイドにも載ってないけど、峰村さんは感動したんだって」
「一緒に行こうって誘われたんじゃないの?」
「そんなんじゃないわよ。ほんとにすぐ茶化すんだから」
 お姉ちゃんが怒ったように照れて早歩きしだした。いつの間にか空はすっかりオレンジ色に染まっている。

 私はお姉ちゃんの背中に向かってささやいた。
「『ナントカと秋の空』みたいに心変わりしないでよ」
 振り向いたお姉ちゃんの顔は怒っていなかった。
「わかってるわよ」


      (第八話に続く)




原作では、麻紀と美里のコイバナ風会話が延々と続いていて情景描写をほとんどしなかったためか不評でした。^^;
次話も美里視点です。



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