田中裕子さんへの53問53答【ライター100人押しかけ問答 #3】
ようこそ、ライターさとゆみの押しかけ問答部屋へ。
ライターさんに伺う1問1答シリーズ第3弾です。いろんな方にアドバイスいただき、第3弾にて、あっさりリニューアルします。(たなゆきさん、本間さん、ごめんなさい。またぜひ2度めのチャレンジさせてください)
今回お引き受け下さったのは、さとゆみのランチ友でもある、ライター田中裕子さん。大学卒業後、ダイヤモンド社での2年間の営業と2年間の編集を経て、2014年に独立。ライターズ・カンパニー「バトンズ」に参加し、ビジネス書を中心に書籍のライティングをされています。
Q1:裕子さんはいつごろから本づくりに関わりたいと思っていたの?
A1:昔からなぜか「後世に何かを残したい欲」があったんですよね。だから建築家か、コンテンツを作る仕事に就きたいと思っていました。
私、鹿児島出身なので、高校2年のときに近所にできた紀伊国屋書店が東京とのパイプだったんですよ。「都会と同じイケてる情報がここまでくるなんて、本ってすごい!」と入り浸っていました。
Q2:編集からライターの仕事に転向しようと思ったきっかけは何だったんですか?
A2:編集者時代に1冊の書籍のライティングを担当したことが直接のきっかけかなと思います。それがすごく楽しかったんですよね。
Q3:編集とライター、何が一番違うと思う?
A3:編集は本づくりを俯瞰して見て、テーマを見つけることから始めて、いろんな人に仕事をお願いしたり、ディレクションしたりする仕事。
私はそれよりも、ライティングというひとつのものごとに集中して、そのクオリティを最大限あげることのほうが性格的に向いているんじゃないかな、と。
Q4:ジェネラリストというよりはスペシャリストタイプということ?
A4:うーん、カッコよく言えば。そういうことにしておいてください(笑)。
Q5:ダイヤモンド社の編集さんといえば、誰もがうらやむ職だと思うんだけれど、迷いはなかった?
A5:なかったです。いろんな人に「あんなホワイト企業をやめるなんて、もったいない」とは言われましたけど。
Q6:実際に転向して、ライターの仕事は楽しい?
A6:くるし、たのし、ですね。
Q7:何が苦しくて、何が楽しい?
A7:〆切は、くるし。嫌ではないんですけどね。楽しさの方は……どうなるかわからない素材から一冊の本をつくっていくことかな。
Q8:ライターになる前に知りたいと思っていたことはどんなこと?
A8:ライターの先輩に最初に質問したのは、原稿を書くときに使うPCのディスプレイのサイズ(笑)。
Q9:実際には何を使うことにしました?
A9:家ではASUS、会社ではDELLのディスプレイにMacBookAirをつなげています。ワードのA4が縦でまるまる2つ並べられないとやりづらいかな、ということで。
Q10:他に、ライターになる前に知りたかったことは?
A10:一番知りたかったのは、どのクオリティまで到達したら満足できるものなのかなあ、ということ。
Q11:それに対しては、いま、どう考えていますか?
A11:到達点はまだわからないけれど、自分が手を抜いたことを後悔するようなことだけはないようにしようと思ってスタートしました。「あのとき粘れなかった……」と思うのが一番嫌だから。
Q12:裕子さんは、原稿に対してすごくストイックな印象があるのだけれど、自分の原稿は振り返ったりする?
A12:あ、それ、さとゆみさんに話したかったんですよ! 私、最近、原稿の書き方が変わった気がするんです。
Q13:お〜、それ、ぜひ詳しく聞きたい! 前と変わったことってどんなこと?
A13:対談原稿で言えば、現場の空気やリズムが伝わるように意識して書くようになったんですよね。そして、その場では語られていないことを読み取って変換して伝えようとするようになったこと。こっちのほうがより大きな変化かも。
Q14:変換するというのは、その人が実際には発していない言葉に変えるってことだよね?
A14:そうですね。
Q15:私、対談だと、実際に発してない言葉に変換するのが怖いと感じることも多いのだけれど……。
A15:わかります。でも、やっぱりライターの仕事ってテープ起こしとは違うと思うんです。いまこうして話をしていても、言葉って選び抜いて発しているわけじゃないですよね? だから忠実に再現することが必ずしもいいわけではなくて、話した人が意図したことを汲み取って翻訳して表現することが大事だな、と。
Q16:言葉を翻訳するときに、どういうことに気をつけたら、ぴったりフィットした表現になるんだろう?
A16:まずテープをしっかり聞くことかな。例えば、その人がウィットを効かせてこの言葉を発したのか、はたまたまじめな調子で発したのかは、あとでテープを聞き直さないとわからなかったりするんですよね。それを確認した上で、その人の発言の意図が一番伝わる言葉に置き換える感じです。
Q17:なるほど〜。それって対談した人から「そうそう、それが言いたかった」と言われる原稿だよね。他にも、その人らしさを出すために工夫していることってある?
A17:過去の書籍や講演録を読んで、どういう話し方や考え方をされる方なのかを確認したり。
Q18:そこまで丁寧にやるのって、すごく時間かかりそう。
A18:そうなんですよ。私、昔は速く書けるほうだと思っていたんですけど、どんどん遅くなっている気がします。
Q19:書籍の方はどう? インタビューは企画書に沿って1章めから話を聞きます?
A19:いろいろです。各論から聞くときもあるし、とても大きな話から聞くときもあります。お忙しい方だと、先に質問事項をお送りしますけれど、だいたいその通りにはならず脱線していきますよね。
Q20:取材のときはどんな格好していきます?
A20:営業部のときに着ていたくらいの服装です(笑)。
Q21:営業部のときの格好が想像できないのだけれど……(笑)
A21:ジャケットもしくは衿つきくらいです。今日はすっぴんメガネですみません。
Q22:インタビューしていて、難しいと感じるのはどんなとき?
A22:うーん……。スムーズにいきすぎているときかな。難しいというよりは怖くなる。立て板に水という感じで話されたときって、もともと著者さんの中にある引き出しから答えを引っ張り出してきたということだから。
「あれ? そういえば、どうしてだろう?」と、ふと立ち止まって考えてもらうような質問ができていないからじゃないかな、と不安になります。
Q23:こんな質問をしたら新しい話が聞けたという例はありますか?
A23:自分の悩み相談をしたり、架空の友達の話をしたときかな。セミナーのような「1対多」ではなく、「1対1」の話を聞けたとき。「私の後ろに大勢の読者がいるのだけれど、今は私に話してください」という感じで聞きます。
Q24:取材現場や構成のイニシアチブをとることはある?
A24:あります。ライターは書くだけが仕事じゃなくて、コンテンツそのものを作るチームメンバーの1人だと思っているので。
Q25:編集者時代にライターさんと仕事した経験があるのは裕子さんの強みだよね。
A25:みなさん素晴らしい方ばかりで、本づくりを引っ張ってくださったし、一緒にコンテンツを磨いていこうとしてくださったんですよね。だから、次は私がそういうライターにならなきゃと思っています。
Q26:いま、自分に一番足りないのは何だと思いますか?
A26:時間。
……そういう意味ではない(笑)?
Q27:そういう意味じゃなかったけど、まあいいや。なんで?
A27:1日48時間あれば、倍頑張れるし、倍はやくうまくなって、倍いいコンテンツが作れるのにと思う。古賀さん(バトンズ代表・古賀史健さん)の努力を毎日見ていると、私の努力なんて若いくせにミジンコみたいだと思うので。
Q28:裕子さんって、若々しいフレッシュ感もミジンコ感も全然ないけどね(笑)。
A28:え、失礼な。ぴちぴちですよ。
Q29:裕子さんの目から見て、古賀さんしかしていない努力とはどんな部分だと思いますか?
A29:自分のセオリーを持っていないところでしょうか。1冊1冊それぞれに向き合って、命を削って書いている。私は古賀さんより命が長いので、もっと削らなきゃなあ、と(笑)。
Q30:古賀さんはどういう書き方をされる方なの?
A30:まず妥協をしない。「なんとなく」で書かないし、資料の量も半端ないです。「ま、いっか」と絶対に思わない人ですね。1章にかける時間が信じられないくらい長いんですよ。
Q31:1章というのは、第1章の意味?
A31:そうです。第1章でリズムや文体をとことん考え尽くすんですよね。ずっと1章を書いているイメージ。
Q32:裕子さんはどうですか?
A32:似たタイプだと思います。第1章は「これは本当に面白いのかな」という疑いが晴れるまで手離れできないです。気が小さいので(笑)。
Q33:全体の執筆にかかる時間を100%だとしたら、1章にかける時間はどれくらいですか?
A33:30%くらい?
Q34:推敲にはどれくらい時間をかけている?
A34:1章を書き終わる前から、最初に戻り書き直し、書きながらまた最初に戻り……を常にしています。一度書いて、また最初から書いて。書くのに疲れたら読み直して書き直して。
リライトは大好きです。ささくれをとって、ヤスリをかけ、磨いている感覚が好きなんです。
Q35:古賀さんから具体的に指導されたことで、一番血肉になっているアドバイスは?
A35:愛のある赤字の数々。「全体の流れがここで詰まる」という俯瞰した赤字と、「この言葉は適切ではない」という赤字を両方入れてくれるので。
Q36:うわー、いいなあ。それって、自分一人でやってきたとしたら気づけていなかったこと?
A36:膨大な時間をかけたら気づけるかもしれない。けれど、道を示してもらうことで早く理解できるし、咀嚼して考えることもできるのかな。
Q37:いま、裕子さんが古賀さんもしくはバトンズに貢献できていると感じることはどんなこと?
A37:そこなんですよ! いつもそれを考えているんです。古賀さんに聞いても「頑張ってくれればいいから」としか言われないので。でも、やっぱりそこなんでしょうね。「バトンズって、誰に頼んでもクオリティ高いよね」と言われるものを作るしかない。
古賀さんから吸収しつつ、でもコピーになるのではなく、少なくとも「20代で書籍ならバトンズの田中さんだよね」と言われるようにならなくては、と。
Q38:20代、もうすぐ終わるじゃん
A38:いやいや、まだ2年以上ありますよ!(笑)
Q39:げ。まだ27だっけ。恐ろしい20代だ……。バトンズに通って書くことは、家で書くのとどのような違いがあるのかな?
A39:質問や方針の確認、あとはしょうもない雑談ができるのがいいですね。ライターは絶対に共同作業できない仕事だけれど「1人だけど、1人じゃない空間」というのがいい。
Q40:ずっとバトンズで活動する予定?
A40:全然わからないです。今のところはいたいなあ、と思っているけれど。
Q41:独立する可能性も?
A41:フリーになるかもしれないし、独立しない可能性もあると思います。自分が後輩を育てられるようになるまでは頑張る、という貢献の仕方もあるのかもと思いますし。もっと上手くなって、古賀さんに「やべえ」って思わせることが、一番の貢献かもしれないですね。
Q42:古賀さんを越えたいと思える、その自信というか、自分への信頼感はどこから生まれるのだろう?
A42:自信があるわけじゃないんですよ。でも、こういう仕事は不安を外に出してもいいことは何もないと思っていて。独立したときから、それは意識しています。不安げな駆け出しライターとは編集さんも著者さんも仕事したくないと思うので。……そう思わないと、この仕事、できなくないですか?
Q43:質問を質問で返しましたね?(笑)
A43:うーん、読んだ人の人生が変わりまくって日本がひっくり返るような本を作ろうと思っていないと、そういう本はできないと思うんです。同じように、すごいライターになるぞと思わないときっとなれないだろうなあ、と。
Q44:落ち込むことはあるんですか?
A44:え〜、ありますよー。
Q45:例えばどんなとき?
A45:できるはずのことをやらなかったことが露わになるとき。文章の意図を問われた時に、なんとなくしか考えていなかった自分の浅はかさを知るとき。
古賀さんは、何を聞いても必ず回答が返ってくる。そしてそれを聞いて私は落胆するんです。
Q46:落胆する?
A46:自分はそこまで考えられていない、ということに。多分、負けず嫌いなんだと思います(笑)。
Q47:それは、同じステージに立っているから悔しいと思えるんだろうなあ。
A47:そうなんですかねえ。あ、「弟子」という言葉に違和感があるのは、そこなのかも?
Q48:古賀さんからも「不敵な大物感」と紹介されていましたが
A48:ふふふ……。
Q49:初めてインタビューされて、いま、どんな気持ちですか?
A49:感想は2つあって、ひとつは取材されるのってこんな気持ちなのか。確信を持って質問に答えられるわけじゃないんだな。もっと取材相手を慮らなくては、と反省しました(笑)。
もうひとつは、もっと常々自分が考えていることを意識的に言語化しておかなくてはいけない、ということです。
Q50:言語化できていたほうがいいと思う理由は?
A50:暫定解を常に持っていたいと思うからです。
Q51:なぜ暫定解を持っていたほうがいいと思うんだろう?
A51:暫定解をステップにして次の解を見つけられるから、かな?
Q52:裕子さんて、本当に真面目だよね。
A52:こういう優等生ぽいこと言うと、読んでいる人が「けっ、真面目でつまんない女」って思いますかね?
Q53:(笑)。いや、つまんなくはないけど、ストイックだなあとは思っているよ。一貫してるよね。
A53:いやいや、もともとは怠け者なんですよ。夏休みの宿題とか最後まで手をつけず、あげく提出もしなかったタイプで。だから、意識してそうあろうとしているんです。20代のうちは緊張して生きていこうと思っています(笑)。
ありがとうございました。
【編集後記】
初めて裕子さんが書いた原稿を読んだとき「こんなに完璧な原稿を書く人がいるんだなあ、まいったなあ、26歳かあ」と、思ったことがあります。この一年の間に信じられないスピードでパワーアップしていて「まいったなあ、まだ、27歳かあ」と思っています。スタアになっても変わらず仲良くしてください(笑)。(佐藤友美)
田中裕子さん
1987年鹿児島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、ダイヤモンド社に入社。営業部、編集部を経て2014年独立。ライターズ・カンパニー「バトンズ」に、スタート時から参加。構成を担当した書籍に『「灘→東大理Ⅲ」の3兄弟を育てた母が教える秀才の育て方』(KADOKAWA)など。
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