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「ファミリーナ」2場

#2 山田荘の土曜日午後7時

     備瀬早戸のショートコント。ネタ終わる。
     時計はもとに戻っている。
     真由美、拍手

真由美 「面白いです。それならお師匠もオッケー出してくれるんじゃない  
     ですか」
早戸  「ありがとうございます」
備瀬  「すいません無理矢理見てもらっちゃって」
早戸  「なんか俺らが面白いって事分からしちゃってすいません」
備瀬  「やな感じだな」
真由美 「さすがお弟子さん。テレビでしか見たことないけど、お師匠さん   
     って面白い方ですもんね」
芸人  「え?」

     平助が意気揚揚に入って来る

平助  「こんばんみー!って健ちゃんいる?」
早戸  「カッタんすか」

     パチンコの景品袋を見せながら

平助  「おうよ!今日は大漁だよーん。あれ?なんでまだいるの?」
早戸  「何で知ってるんすか!!」
備瀬  「俺じゃねえぞ」
早戸  「自主規制で一旦引き払っただけですよ」
平助  「で、どうすんの?」
備瀬  「こいつ今月から僕んとこ居候ですわ。俺がネタ考えてるからお前  
     はバイトしっかりやれ、とか言うんですよ」
平助  「そりゃひどい」
早戸  「なにがひどいんすか」
平助  「働かざるもの食うべからずってな」
備瀬  「新人コンクールのネタ仕込まなきゃいけないんですけどね。それ
     で今ちょうど見てもらってたんすよ」
平助  「(下駄箱の上に袋を置き)あれ?えっまさか…」
早戸  「真由美。美容師です」
平助  「マジで…」
備瀬  「違いますよ」
平助  「そりゃそうだ。そんなわけ無いよな」
早戸  「本当に失礼な男だあんた」
平助  「そんで」
真由美 「こんばんは、今日からここにご一緒させていただく、安西真由美
     です」
平助  「よろしくね。で、いくつ?」
真由美 「え?20です」
平助  「20?」
早戸  「20に食いつくなよ」
真由美 「あのー」
3人  「はい!」
真由美 「大家さんの部屋って・・・」
早戸  「大家の部屋?そこです」

     真由美、ノックしてみる

備瀬  「寄り合いに行ってるんじゃないかな」
真由美 「あ、そうなんですか…」
平助  「急用?」
真由美 「いえ…でもよかった、いい人ばかりみたいで」
平助  「大家さんはちょっと怖いけど、ここには悪い奴はいないから安心
     して」
早戸  「なんであんたが言うんですか」
真由美 「そうだ!引越そば作るんですけど、食べませんか?」
男ども 「食べます食べます」
真由美 「じゃあ」

     二階へ行こうとする

早戸  「あの!部屋はどこなんですか」
真由美 「203号室です」
早戸  「に、203!」
真由美 「何か?」
備瀬  「いや、なんでもない。気をつけてね、そこ傷んでるから…」
真由美 「ありがとう(と二階へ)」
平助  「203、前のおまえの部屋じゃん」
備瀬  「落ち込むなよ。俺んとこ、しばらくいていいからさ」
早戸  「大体なんで平助さんがそば食べるんですか!」
平助  「かつての住人が何を言う。さて…」 

     下駄箱の上の景品袋を取ろうとすると、時計に当たり落としてし
     まう

備瀬  「落としてますって。ああ、ダメですよ壊しちゃ!」
平助  「なにそれ?」
早戸  「そんなとこにあったっけ?」
平助  「まあいいや。くっつけときゃばれねえだろ」
備瀬  「おお!ぴったりくっついてる。うまいもんですねえ」
平助  「勝手に開けるなよ」

     そこに買い物袋を幾つか下げて帰ってくる健一とマキ

健一  「ういっす」
平助  「ういっす」
早戸  「てめー、いっつもギターうるせえんだよ!」
健一  「なんだいきなり」
早戸  「朝から晩までジャカジャカジャカジャカ…おとといも言っただ 
     ろ!」
健一  「つーか待て。何で住人でもないやつにそんなこと言われなきゃな
     らないんだ。そんなにうるさきゃ他いけよ」
平助  「君も居候なんだから」
早戸  「ぐ!!!とにかく迷惑なんだよ、ほらよ!(缶詰を投げる)」

     二階からそばの用意をした真由美が降りてくる

健一  「サンキュウ♪え?誰?」
平助  「安西真由美ちゃん。新入居者。20歳。美容師」
備瀬  「そして彼氏なし」
平助・健一「マジで!」
真由美 「はい。よろしくお願いします」
早戸  「なんで余計なこと言うんだよ」
平助  「申し遅れました。わたくし平助です。凡木平助」
健一  「俺健一。健ちゃんでいいよ。髪切ってよ」
真由美 「でも、まだ見習いですよ」
健一  「見習い大好き」
平助  「見習い最高」
マキ  「真由美ちゃんでしたっけ…マキですよろしくね」
真由美 「よろしくお願いします」
マキ  「同棲してるのよ、あたしたち…ね、健ちゃん」
健一  「はい」
真由美 「お蕎麦の支度してもいいですか?」
バカ共 「いいで――す」
マキ  「手伝おうか」

     真由美引っ越しそばを茹でに台所へ。なんとなく席につく形にな
     る。そこに上手から織部がボンカレーを持って入って来る

真由美 「あっ!(時計のほうを見る)えっ!」
織部  「(ちらっと真由美を見る)」
真由美 「あっ、大家さん!帰ってらしたんですか」
織部  「いや」
真由美 「寄り合いでいないって聞いてたもんですから。あら、レトルトで
     すか?じゃ、食事はまだですね、よかったら今皆さんで…」
マキ  「その人大家さんじゃないよ」
真由美 「えっ?あーあーあーあ?あーあーあー」
織部  「誰?」
健一  「何でこういうタイミングで出てくるんだろうね」
平助  「健ちゃーん。歓迎会だよ」
健一  「ああ」     
織部  「私が君になにかしたか?」
健一  「あ?俺はよ、あんたがここにいるのが気にくわねえんだよ」
織部  「気に食わない、なんでだ」
健一  「ここはよ、エロ小説書いて小銭稼いでるような奴が住む場所じゃ
     ねぇんだよ。夢を追ってる奴だけが集まって来てんだ」
織部  「――――――」
健一  「エロ小説でどれだけ稼いでいるか知らねえけどよ。夢が小説家だ
     っていうんならおめえの夢はもう叶ってるじゃねえか。早く出て
     け」
織部  「確かに私の書いた小説には官能的な表現が多数含まれている。世
     に言うエロ小説だ。しかしそのことと私の夢とどう関係があるん
     だ」
健一  「お前話聞いてねえのかよ」
平助  「まあいいじゃねえか。難しいことはよくわかんねーけどよ、そう
     いうのって人それぞれじゃねーの?」
織部  「君には生活がないとでもいうのかね?」
健一  「あ?」
織部  「君だってメシ食ったりクソしたりするだろう。今、君の言ってい
     る「夢」という言葉は単なる呪文に過ぎない。だから夢という言 
     葉を安易に口にできるんだな」
健一  「なんだと」

     備瀬と早戸に二階に連れて行かれる健一。織部ボンカレーを鍋に
     入れる

マキ  「真由美ちゃん、ごめんね。私たちの部屋に来ない?お祝いしよ」
真由美 「え?でも…」

     マキと真由美、二階へ上がる

平助  「織部さんもどうですか」
織部  「いや。私は仕事があるんでね」

     平助が上がろうとすると帰ってくる一徹

一徹  「――――――――」
平助  「あ、――――先生お帰りなさい」
一徹  「――――――――――」
平助  「寄り合い、遅かったですね」

     織部、ボンカレーをよそう

一徹  「―――――お前、またボンカレーか」
織部  「私が何を食べようと勝手でしょう」
一徹  「毎日毎日そんなもん食ってるとちゃんとしたモノが書けなくなる
     ぞ」
織部  「――親父さんもどうです?」
一徹  「そんな加工食品食わん」
平助  「そうですね、いつも美奈ちゃんが作ってくれますもんね・・・す
     いません」
一徹  「―――――――――――」
織部  「美奈ちゃん、結婚するんですって?」
一徹  「誰から聞いた」
織部  「こんなボロアパートで大声張り上げてりゃ嫌でも聞こえますよ」
一徹  「ふん…」
平助  「え?先生、美奈ちゃん誰と結婚するんですか?・・・すいませ
     ん」
織部  「気にいらない奴なんですか?」
一徹  「――――――――――」
織部  「ま、どんな奴が来ても、父親は反対するんでしょうけどね。無力
     ですね」
一徹  「うるせえな」
織部  「――――――」

     間
     二階から春奈が降りてきて、キッチンでハミガキをする

一徹  「…美奈子が結婚するなんて考えもしなかった」
織部  「そうだろうなあ」
一徹  「あいつが一人で風呂に入るようになってからは俺は悪い男に引っ
     かからないようにと…そればかり考えてきた。あいつは女親を知 
     らねえ。男と女って奴をわかってねえんだ」
織部  「酔ってます?」
一徹  「酔ってなんかいねぇよ…大体よ、結婚なんてしたらなあ、子作り
     しちゃうんだぞ…子作り、子作りまた子作り・・・子作りっての
     はな・・・あぁ――――!!」
平助  「酔ってますよね?」
一徹  「お前は黙ってろ。携帯電話が普及してからは美奈子の野郎、俺の
     目を盗んで男と…あぁ――…科学の進歩が俺から美奈子を奪って 
     いったんだ」
織部  「そうだな。それは一理ある」
平助  「ちょっと論点がずれてませんか?」
織部  「一理ある」
平助  「はあ、そうですか」

     備瀬、階段のところから顔を出して

備瀬  「平助さん!!乾杯しますよ」
平助  「おうおう。じゃちょっと、失礼します」

     平助、二階へ行く

一徹  「―――お前、いつになったらここ出て行くんだ?」
織部  「え?」
一徹  「いつになったら豪邸に住むような作家サンになるんだって聞いて
     るんだよ」

     入って来る仙道

仙道  「こんばんは」
織部  「仙道…」
仙道  「お久しぶりです。うわあ。懐かしいな」
一徹  「随分活躍してるみたいじゃないか。テレビ見たぞ。まあ上がれ」
仙道  「はい失礼します。あ、ミシミシしてんなあ…」
一徹  「今日はどうした」
仙道  「実はですね、今日は親父さんにいい話を持ってきたんです。単刀
     直入に申し上げます。今度ボランティアの一環として、わがライ
     ブチェアーで空手道場を作ろうと思ってるんです。そこでその道
     場の師範を探してるんですよ」
一徹  「道場の師範か。俺はヒョードル、ノゲイラ、ボブサップがいいな
     あ。あ、予算を気にするなら小川も悪くないぞ」
仙道  「確かにヒョードル、ノゲイラ、ボブサップ、候補に出ました。で
     も、彼らはまだ指導者としての器じゃないと思うんですよ」
一徹  「小川なんて悪くないと思うがなあ」
仙道  「一般的にはその通りだと思います。しかし、指導者として一流と
     なるとこれがなかなか出てこない。そこで重役会議は停滞してし
     まいました。僕はそこではたと思いついたんです。親父さん…い
     や、山田一徹さんこの空手道場の師範は、あなたが適任だと、こ
     う決定しました」
一徹  「なぬ?」
仙道  「今日はその契約書を持ってきたんです。ここにサインをお願いし
     ます」
一徹  「俺はやらんぞ」
仙道  「他の人とこんな素晴らしい事業を組む訳にはいかないんです。一
     緒に未来の金メダリストを育てましょう。いや、育ててくださ
     い。僕は親父さんこそが適任だと思ってるんです。確信と言って
     もいい」
織部  「お前…ずいぶん変わったな」
仙道  「6年ぶりですからね。とにかくサインお願いします」
一徹  「やらんと言ってるだろ」
仙道  「じゃあ正直に言います。僕にとって親父さんは本当の親父以上の
     存在なんです。家族です。マイファミリーなんです。僕は親父さ
     んと一緒に夢を見たいんです」
一徹  「やっぱり俺より小川だろう」
仙道  「話を逸らさないでください」
織部  「そういえばプロ野球、残念だったな」
仙道  「え?」
織部  「楽天とはどうなんだ?」
仙道  「おかげさまで三ツ谷社長とは友好的な関係を…あぁ、いや師範の
     件、ぜひ前向きに…アォウ!!」
織部  「なんだよ」
仙道  「あ、すいません、ちょっと失礼します(携帯を取り)あ?そんな
     ことでいちいち電話して来るんじゃない!!(出て行く)」
一徹  「なんなんだ、あいつは」
織部  「あれでIT業界は大丈夫なのか…」
一徹  「…大丈夫なんだろうよ。あいつはあれでも頑張って来たんだ」
織部  「…そうですかねぇ…」
一徹  「…お前、ここに来たとき俺に言ったこと覚えてるか?」
織部  「…昔の話ですよ」
一徹  「…お前去年、賞を貰ったよな?」
織部  「ああ」
一徹  「お前、その肩書きに甘えてるんじゃないか?と言ってるんだ」
織部  「甘えてる?」
一徹  「そろそろやるべきことをしてもいい頃なんじゃないか?」
織部  「俺は変わってませんよ。何も変わっちゃいない」
一徹  「人は時間と共に変わっていくんだ…変わらないのはこの下宿ぐら
     いだ」
織部  「―――――――――」
仙道  「(戻ってきて)いや、すいません」
一徹  「お前、もう帰って仕事しろよ」
仙道  「はい!いや変わりましたよ。今外から見たんですけどね、瓦もボ
     ロボロだし6年前と比べても大分傷んできてます。もし直下型の   
     地震でも来たら、一瞬でペシャンコになってしまいますよ。こん
     な木造の建物で火事でも出したらどうするんですか?隣近所にも
     ご迷惑かける事になるんですよ」
織部  「お前は何がいいたいんだ」
仙道  「金銭面での心配はご不要です。費用は我がライブチェアーが全額
     持ちますので。ここを改築なされたら如何でしょうか」
織部  「改築する?ここを?」
仙道  「ぜひ、僕に恩返しをさせて下さい」
織部  「ここを建て直すことでか?」
仙道  「ここは僕にとって貧乏だった頃の思い出の場所なんです。誰でも
     出入り自由のこんな玄関だって、オートロック付きのエントラン
     スにすれば、セキュリティの面でも完璧になりますから」
織部  「そんなのお前が心配する事じゃないの。大きなお世話。それに、
     ここは一度も空き巣も泥棒も入ったことはないの」
仙道  「いやいやずーっと住んでいるから気付かないだけなんです。こう
     いう所なんか、シロアリが食ってるんです。このままほっといた 
     ら取り返しのつかない事になりますよ。このうちはボロボロなん
     です、悲しい現実ですが人間が時間とともに変わっていくように
     この建物も変わったんですよ」
一徹  「変わっとらん。ここは全部、昔から傷んでたんだ」
仙道  「変わりましたよ」
一徹  「変わっとらん」
仙道  「変わりました」
一徹  「変わっとらん」
仙道  「もう。強情だな…百歩譲って変わってないっていったら…この時
     計ぐらいなもんで…ん?ん?」
一徹  「?電池が切れたんだろ?」

     と来て手に取ると二つに割れている時計。一徹、激怒!!

一徹  「あれ???…!!!!gj歩ヴィo:nre:bw」hw@亜vれ:bkk:t」!!」

     暗転


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