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あれよあれよとハノイ

着いてしまった。ベトジェットエアの狭くて蒸れる座席に6時間座り、隣のおっさんのガンガン当たってくる肘にささやかな抗議をしていたらあっという間だった。

成田空港に朝九時半発の飛行機に乗って、14時にもうハノイの蒸し暑い空港に降りたっていた。たかが5時間で世界が丸ごと変わった衝撃についていけないまま、無愛想な入国管理にドキドキして、荷物を回収して、両替をして、現地用のSIMカードを買った。正直に言うと初めての1人海外旅行にめちゃくちゃビビっていて、どうにかなりそうだった。
SIMカードを買うときに期間を聞かれて、about 2weeks と答えるだけで声が震えて、店員の兄ちゃんにニヤッと笑われた。親切な兄ちゃんはお水を出してくれて、一緒に設定もしてくれた。
急に後ろから肩を叩かれて、ビクッとしたら、僕がベンチに置き忘れたパスポートをおじさんが届けてくれた。一気に肩の力が抜けてしまった。良い人だ。


入国審査の列

ハノイの空港から市街地までバスで30分。車内のベトナム語の喧騒を聞いているうちに、ああ異国に来たんだなあとしみじみとした。

バスから降りてブッキングドットコムで予約した安宿、一泊600円に移動し、バックパックを降ろしてフォーを食べに行った。
ホステルには100年前からバックパッカーをやっていたんではないかと言うほどの年季の入ったバックパッカーがいて、我が物顔に洗濯をしていた。2段ベッドの並んだ寝室にはすえた匂いが漂っていて薄暗かった。

初めての経験というのは大事にしたほうがいいと思っている。初めての経験を味わえるのは一回だけなのだし、そこで生まれた感情は忘れられないものになる。
自分1人でなにも知らないベトナムに飛んで、臭い宿に泊まって、身振り手振りで注文をする。全部新しくて、疲れるけど驚きで満ちていて、たまらないなと思った。


このフォーはとても美味しかった。牛骨の出汁が濃いめにとられているところにニンニクの風味とライムの酸味が効いていた。とても爽やか。
牛肉も日本とは異なり、赤身で熟成されていない歯応えのある味わいだった。
店の前で7万ドン、大体400円ぐらいを支払い、座るとすぐにフォーが出てきた。

空港からのバスで一緒になった北大のバックパッカーの人と一緒に晩御飯を食べた。旅先で日本人同士でつるむのもなんだかなあ、と思ったけれど、心細さに負けて一緒に行動することに。
小鴨を照り焼きにした広東料理風のものがとても美味しかった。小鴨の骨をバリバリと噛み砕きながらジャスミン茶を飲み、パパイヤのサラダを食べて、かなり元気が出た。


宿に戻ってシャワーを浴びて、ゴロゴロしていたら「ファック!ファックユー!」という大声が聞こえてくる。外国人のバックパッカー2人が扇風機の位置で喧嘩していた。怖いなと思いつつ耳をそばだてていた。英語が母語の人がそうでない人にもわかりやすく罵倒していて、はっきりと「アイ ヘイト ユー」と言っていた。片方が手を出しそうになったところで逃げ出して、寝室に平穏が戻ってきた。
シャワーは冷たいし、トイレは臭いし、蛇口は壊れているけれど、生活環境の低さには山小屋で慣れている。山小屋バイトしていてよかったと思いながらぐっすりと眠った。

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