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つまり、佐藤の本棚。

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今まで読んできた本にまつわる「記憶」の記録です。
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2017年4月の記事一覧

読書の記憶 五十四冊目 「桜の森の満開の下 坂口安吾」

大学生のころの話。二月だったと思う。僕は友人達と車で移動していた。途中で長い並木道を通った。そこは桜で有名な並木道で、春には見事な風景が広がるとのことだった。しかしその時はまだ、冬の色のない桜の木が淡々と並んでいるだけだった。 友人が「桜の木は、一年かけて花を咲かせる準備をする」と、いうようなことを口にした。「今の時期は、外見では何も活動していないように見えるけど、中身は春に向けて盛んに準備をしているというわけだ。桜は一週間ほどで盛りを迎えて、一気に散ってしまう。その短い時

読書の記憶 五十三冊目 「春と修羅 宮澤賢治」

子供のころから読書が好きで、時間さえあれば何かの本をめくっていたような気がする。文学作品でも資料集でも電化製品のパンフレットでも、とりあえずなんでもよかった。文章を読んでさえいれば、満足するような子どもだった。 ところが「詩」に興味が向くことはなかった。正確に言うと、音楽の「詞」は好きだったし、バンド活動をしている時には「詞」を書いたりもした。いわゆる文学作品としての「詩」が、あまりピンとこなかったのである。 大学一年生の時だった。下校途中に駅前の書店に立ち寄った。いつも