持久力

(旧サイトの「オンラインレッスン」記事のアーカイブです。2017-02-10の記事です。)

持久力(スタミナ)に関してです。
練習方法(確認方法)の例としてご活用ください。

譜例

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■持久力について

トランペットの演奏における「持久力」というのは、いかに「バテ」ずに最後まで吹けるか、という現実的問題として奏者に常につきまとう重要な点です。

「バテ」への対処として、多くの場合は、練習が足りない、唇の筋肉が足りない、腹筋が足りない、○○が足りない、だから「○○をもっと鍛えなければならない」と考えがちです。

しかし、私の考えはそれとは全く逆で、我々はトランペットを長時間吹くための力はすでに持っているにもかかわらず無駄が多すぎるためにかなりのエネルギーを浪費していて、そのせいでバテるのであって、考えるべきは「もっと無駄をなくす」ということだ、というものです。

口笛を吹くかのように、あるいは息を普通にフーっと吹き出すような感じだけでトランペットで音が出る人と、様々な筋肉をぎゅっと固めて息を押し出してやっとトランペットで音が出る人と、どちらが持久力があるかといえば、当然ながら前者です。

バテを知らない(ように見える)名手たちは、音の出し方が非常に効率的で、無駄のある状態の人と比較した時、例えば普通にソをのばす、というごくシンプルなことの時点ですでに、使っている力(または無駄に浪費されている力)に歴然とした差があるわけです。

つまり、バテの早い人と、長い間バテずに吹ける人との違いは、どれだけ力を持っているか、というよりは、どれだけ無駄がないか、ということにあるのです。

「バテやすい」と悩む人のほとんど全ての人は、音の出し方そのものや、ごくごくシンプルな(基礎的な)部分で、すでにかなりの無駄があるはずです。

そしてその基礎的部分での無駄は、高度なことや長時間の演奏になると増幅されて症状としてわかりやすく表れることになります。この時になってやっとバテに気づくわけですが、実はその兆候は、ごくごく基礎的な部分ですでに存在していて、なおかつ、それを改善するためにはそれが表れた時点ではすでに時遅く、基礎的な時点でこそ、改善ができるのです。

■A

単なる半音のスラーです。

この時点で、聴く人が聴けば、その人がどれだけ持久力のある人か、おおよその見当はつくだろうと思います。

スムーズに、リラックスして、そして本当に美しい音で、この3音のシンプルなフレーズが吹けているでしょうか。

楽にリラックスして息を吸って吐いて、という、自然に呼吸をするかのように、ただそのままに非常に近い感覚で、口笛を吹くかのごとく、このフレーズは吹けるものです。

もし、身体を固めなければならない、息を押し込まなければならない、音の移り変わり目で段や壁を感じる、などがあれば、それこそが、バテを引き起こす、無駄・非効率な要素ですから、修正の余地が大きくあります。

この時点での無駄・非効率な部分を解消できたら、自ずと持久力は上がるはずです。

ここではソーファ#ーソを使いましたが、もちろん、他の高さの音でも同様です。

■B

ごくシンプルなリップスラーです。

これも同様に、聴く人が聴けば、その人がどのくらい持久力があるか、効率的に音を出せる人か、わかってしまうものです。

どれくらいスムーズに、楽に、音の高さの距離を大きく感じすぎずに隣り合った感じで、このリップスラーが吹けるでしょうか。

Aと同様に、この2音を吹く中に存在している無駄や非効率性が、実は持久力に大いに影響しているのです。

ここではソードのリップスラーを使いましたが、他の高さの音でも同様です。

■C

ppppで(つまり最小の音量で)音を出す、という作業です。

息だけになってしまうか音になるかのすれすれの音量で、かつ、音質的には細くならずにフルな音質で。

他の高さの音でも同様です。

■D

ごくごく小さな音量から、最大音量までスムーズにコントロールする練習です。

音量のコントロールの非効率さから、弱音、強音の両方あるいはいずれかの側面でバテが起きやすい、ということがあります。

■E

ごくシンプルなタンギングです。

特にタンギングした時に、音のポジションがずれる(音のセンターから外れた状態で吹く)ということによってバテの要素を作り出しているということがよくあります。

タンギングに限ることではありませんが、音のセンターから外れて音を出すことは、楽器が物理的に共鳴しにくいポイントで楽器を鳴らそうとしているわけであり、使っているエネルギーの多くが音にならずに消費される、あるいは、使っているエネルギーが音になる部分と同時にそれを打ち消すために使われ拮抗する、という状態です。

それによって、当然ながら唇その他のあらゆる部分が本来必要のない負担を大いに強いられることになります。

一音一音、すべての音が、それぞれのジャストのポジションで鳴るようにすることが、連なる音のフレーズを無駄なく吹くということになります。

エネルギーを節約する、でもなく、エネルギーを浪費する、でもなく、ジャストのポジションで吹くことによって、結果的に適切な最小限のエネルギーで音が出る、ということです。

■F

息を吸って、音を出す、という最もシンプルな作業です。

音が出るのは、息が出ているから、ですが、息の「吸い方」の質が息の「出方」に大きく影響しています。

吸い込みが浅くても、息を押し出すことによって音を出すことはできます。しかしながら、この時には、身体の筋肉を締め付けることが必要になり、全体に(唇その他が)固まる傾向で音を出すことになります。

一方で、吸い込みがリラックスし深く大きければ、息は自然に流れ出て行き、この時には身体全体や唇は非常に楽なままであることができます。

(ここでは詳細な説明は割愛しますが、これは体験し理解したことのある人にとっては非常に大きな違いです。)

つまり、息の吸い込みの質の違いは、息を吐き出している時の身体全体への筋肉の酷使の度合いを大きく決めるのです。

息を吸って、真ん中のソを美しくのばす。

この作業の中にも、無駄と非効率は多分に潜んでいるはずです。

■G

クイックブレスの練習です。

曲の中で、素早くブレスをとらなければならない時、ブレスの時間が短いからといって息の吸い込みの質が下がることは、Fでも述べたような理由から、息を出している時の効率性を大きく妨げることになります。本来より身体を締め付けて非効率的に音を出し、バテを早めることになります。

ですから、数時間が短くても、できる限り、ゆったりとした深くリラックスしたブレスと同じ質を保って吸えるようにしておく、ということは重要です。

楽譜の「X」の音符では、息をタンギングしながら吐きます。そして各小節の最後の休符でブレスをとります。

徐々に数時間が短くなっていきますが、決してブレスの質が下がることなく(浅くなることなく)、同じ質を保ったまま(リラックスして深く大きなブレスを保ったまま)最後まで進めましょう。


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