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過去、坂道は、点描であふれていて、それらが側溝に入ってしまわないように、丁寧に蹴りながら帰った。手袋のなかの、一人称の温さを覚えている。角の更地。以前に住んでいた友人の、たましいだけ残っている。この水溜まりの一つにも願いごとが溶けているから、できるだけ鉤括弧を小さくしながら喋る。

気管支炎の夜に、胸にぬってくれた薬。今の生活の、脈絡を棄て、前世で聞いた、濃い方言のなかで、眠りまじめた。自分も噴水の続きになろうと、魚が、午後の日光を吐き出しはじめる。湖面を、底側からみた景色をどう絵日記に、したためられるか。窓枠におさまるように育てられた、小指ほどの朝に。

夫婦は、洗濯物のかわきがよい、白い離島を、溜める。優しく、隔絶された後悔が、鎖骨でできる窪みに、残る。幼児向けの映画も、好んで観れた。おそらく今、現実より血は青白くながれ、瑞々しい不安のまま、排水溝の奥の、病原体と、受精する。

中耳炎の痛みのまま栞が、ページの間の、逆さまの重力に差し挟まれている。午睡を邪魔しないよう寝息に、昔の映画を混ぜてあげたい。異性の背中の上を、いつまで散歩すればいいのか。すぐに霧雨の輪郭になってしまう。幼いころ夜尿は、青空の切片だった。無関心を装うための、草笛が上手くなっていた。

人を、待たせている。胸から青空が広がり、はみ出して苦しい。瞳孔から産まれる主語が、見る、という行為を、虚空に返す。中空は、背筋を伸ばして、アケビの実を、見忘れる約束を、木々と果たす。水蒸気は一瞬一瞬を自殺しながら、言葉のもつすべてを言い表せない性質で、人が待っていると知っている。

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